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「アンタのその色、嫌いじゃなかったけど」
「ほんと、お前って、酷い奴だよなあ」
その酷いは、そういう意味の酷いじゃないんだろうなあ、と感じながらも、私は何それ、という風にしか返せない。
酷い奴と良いながら、顔は諦めが滲んでいて、アルベドこそ、変な奴という風に見えるんだけど。まあ、そんなことは口に出さずに、私は、じっと彼を見た。元に戻った、銀色の髪が揺れ、私は、前髪を直す。
「アンタは、これから、私の『旅』に付合ってくれるわけ?」
「そのつもりだったんだが……て、何でそんないやそうな顔すんだよ」
「だって、巻き込みたくはない……って、何度も言わせないでよ」
「俺は、俺がしたくてやってるんだから、巻き込むも何もねえだろ。意地っ張りが」
と、アルベドは、ムッと口を尖らせていった。
意地っ張りと言うほど意地っ張りじゃないんだけど、と言い返したかったけど、その気持ちは嬉しくて、自分がしたくてやっているのなら、それは、止めるべきではないんだろうなとか、思ってしまっている。
でも、私と一緒にいたら、命の保証はないし、危険な事には変わりなくて。
「まあ、でも、一つ忠告するなら、今のお前じゃ、彼奴には勝てないだろうな」
「彼奴って、もう一人の、エトワール・ヴィアラッテア……」
「そっ」
アルベドはそう言うと、風魔法を使い、湖の上を歩いて行く。小さな波紋が、やがて大きくなっていって、アルベドがどんどん遠くへ行ってしまう。待って、と手を伸ばしたら、消えてしまいそうな、そんな儚さに、私は、言葉を失う。
アルベドまで失ったら、どうなるんだろう。
きっと、壊れてしまう。だから、だから、いやなんだ。
「勝てないって、なんで」
「少しの間だけ、彼奴の側にいたからなあ。まあ、それよりも、問題は同じ魂がそこにあるっていうことが問題だな」
「は?」
「まあ、実際は、違う魂だが、魂に刻まれている文字が同じっつうこと。視覚的に魂を捉えるのは無理だ。だが、真名は、多分、彼奴とお前は一緒だ」
私は、元は、天馬巡なのに?
魂が同じなわけないが、真名とやらが、一緒だから、同じ魂扱いされると言うことだろうか。そんな、オカルトじみた話、嫌だなあ何て感じながらも、アルベドの言うことだから、信じてみようと思った。
まあ、要するに、同じ魂が二つ存在しているのは矢っ張り危険だと言うことだ。歴史とか、世界そのものを揺るがしかねないんだろうなって聞いてて思う。
真名って言うのが多分、此の世界にきて、刻まれた私の名前的な奴なんだろう。どんなものかは、ちょっと予想できないし、見えないっていていたから、見る必要というか、そもそも見えないからあれなんだけど。
「同じ魂同士が衝突し合えば、お前が消えるから」
「ぴえっ」
「変な声出すなよ。本気で言ってんのに」
と、アルベドに、少し怒鳴られてしまう。
でも、仕方ないじゃないか、本気でそんな声が出てしまったのだから。
(じゃあ、エトワール・ヴィアラッテアは、私の魂が消滅するまで待っているってこと……だよね)
そうして自分の身体を取り戻す的な。
直接ではなく、間接的に手を出してきているのは、そういう理由があったのかと、私は、アルベドの言葉を聞いて思った。だったとしたら、厄介だ。
(こっちから、近付いてみる?)
それも、リスクが高すぎる。そんなリスク背負って、エトワール・ヴィアラッテアに会いにいけない。もっと、平和的交渉が出来れば良いんだけど、あっちは、私に対して、怒りというか、そういう不の感情しか抱いていないわけで。
「じゃあ、どうすれば良いのよ」
「だから、『旅』すんだろ?」
「……逃げ回るってこと?でも……」
アルベドの言いたいことは分かる。勝てないなら、逃げ続ければ良いって。でも、それって、何の解決策にもなっていないし、逃げるだけじゃ、何も変わらないって分かっているから。それはしたくなかった。
追い出された私でも、まだ出来ることがあるんじゃないかって、淡い期待があるから。そんな、もの捨ててしまえば楽なのに。
捨てれないのは、ただの強がりだ。良い方法じゃない。
「もう、守るべきモンは何もねえだろ」
「何もないって……私は……っ」
「強がるなよ。あっちには、優秀な奴らがいっぱいいるんだ。どうにかしてくれるだろ。今は、自分の身の安全を確保しろ」
「でも、エトワール・ヴィアラッテアは、凄い魔力を持っているんでしょ?」
「だが、お前しか狙わねえ」
「そんな保証、何処にもないじゃない」
「じゃあ、彼奴らの元に戻るか?」
と、アルベドは、少しきつい言い方で言う。
私は、言葉を返すことができなかった。
戻ったところで、迷惑をかけるだけだし、エトワール・ヴィアラッテアの息がかかっているかも知れないとはいえ、普通に、皇帝陛下云々の問題で、しめだされそうで。
なら、どうすれば良いのか。アルベドの言ったとおり、逃げれば良いのかと。
「…………」
「まあ、今すぐに決めろっつってるわけじゃねえ。エトワールが考えれば良いだけの問題だ。一つじゃねえだろうしな、答えは」
「……分かってるけど」
私の凝り固まった考えじゃ、どうしようもないってことが突きつけられた気がして、私は、辛かった。こんなに柔軟に考えられなかった人間だったかな、なんて。よっぽど、辛くて、かたまってしまっているんだなと思ってしまった。
冷静になりきれていない。
アルベドがいてくれたから、まだマシなだけで、一人で突っ走っていたら、きっと失敗しただろうって。
「ありがと」
「唐突だな。俺は何もしてねえよ、ただ助言しただけだ」
「それが、嬉しいの。ほんと、バカみたいだよね。私」
「バカは、バカだな」
「ひ、酷い!そこは、違うって言うんじゃないの!?なんで、バカって肯定してんのよ!」
「おい、そのままこっち来んなよ!?」
バカって言った、アルベドを一発殴りたくて、私はずんずんと、湖の法によってくる。波紋が一気に広がって、アルベドはこっちに来るなと、両手を振る。確かにこのままじゃ濡れるかも知れないと。
それでも、私は止らないと歩けば、アルベドは、はあ……~~~~と大きなため息をついた後、私に風魔法を付与した。
「感情のまま動くなよ」
「アンタのこと殴りたかったから」
「どーぞ、どーぞ。殴りたきゃ」
出来るモンならな、と私を真正面から抱きしめて、その場でくるくると回った。受け止められた反動で私は何も出来なくなって、彼の胸に顔を埋めることしか出来なかった。若干宙に浮いている身体。そして、チューリップの香りに、私は包まれる。
久しぶりの人の温もりに、私は、また泣きそうになってしまった。
「殴らねえの?」
「殴れないって分かってるくせに、聞かないでよ。バカ」
「はいはい、俺もバカだよ。相当、バカだ」
なんて、アルベドは返した。
バカじゃない。アルベドは全然バカじゃない。私の為に動いてくれた人に対して、バカなんて言えなかった。
確かに、私の為って言っても、私と一緒にいたら、危険だって、それを分かっていて一緒に行動するとか言いだしたのは、バカかも知れないけれど、彼の優しさだって分かっているから。
「バカ」
「ああ、そうだな」
(違う……バカなのは、私)
本当の意味で、明日の暮らしも分からなくなっちゃって。でも、隣にいてくれる人がいて。その人に縋ってしまいそうになって。その人は、強い自分を持っているから、私が縋っても、強いままでいてくれる。
結局、救われないと生きていけないんだなって。
「話がそれちまったが」
「うん、何よ」
「うんなのか、何なのか、どっちなんだよ……まあ、いいけどな。俺の話し聞いてくれるか?」
「アルベドの話?珍しくない?」
抱きしめられたまま、満月に照らされ、私は、彼を見た。燦々と輝くその黄金の瞳を見て、私はその奥にまた、小さな星を見つけた気がする。希望の。
珍しいか? と、アルベドは聞いた後、らしくない、みたいな感じで、頬をかいて、ポツリと零した。
「俺の夢の話」
そう言った、アルベドは、何処か幼くて、泣きそうな子供に見えた。