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#大人ロマンス
#サレ妻
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里奈からの手紙を読んだ後
健一は以前にも増して私の影に怯え、常に許しを請うような目をするようになった。
その姿は、自ら檻を求めて鳴く小鳥のようだ。
「……ねえ、健一さん。そんなに怯えなくていいのよ。私はあなたに『新しい役割』を与えてあげようと思っているだけなんだから」
私はリビングのソファに座り、ある資料をテーブルに置いた。
健一は床を這うようにして近づき、その資料に目を落とした。
「……これ、は……赤ちゃんの、写真……?」
「そうよ。里奈さんが逮捕される直前まで隠していた『秘密』。…健一さん、あなたと彼女の間にできた子供よ。今は里奈の両親が預かっているけれど、彼らも高齢でね」
健一の顔が、一瞬で真っ白になった。
里奈との子供。
かつて彼が「刺激」と「理想」を求めて犯した不貞の、動かぬ証拠。
「…俺の、子供……っ?でも、里奈はそんなこと一言も……」
「彼女、あなたを繋ぎ止める最後の切り札にするつもりだったみたい。でも、その前に捕まっちゃった」
「…子供が可哀想だと思わない?父親がこんな『家畜』のような生活をしていて、母親は刑務所。この子には、罪はないのに」
私は健一の顎を掬い上げ、残酷な提案を囁いた。
「……この子、この家で引き取りましょうか。あなたが『父親』として、この子を育てるのよ」
「……っ!! そんな……奈緒、お前にそんなこと……! 憎い女の子供を育てるなんて、お前だって苦痛だろ!?」
「苦痛? いいえ、最高のご馳走よ」
私は冷たく笑った。
「あなたの不貞の証拠であるその子を、私が『完璧に』教育し、あなたを軽蔑するように育てる。……子供の成長と共に、あなたは毎日、自分の過去の罪を突きつけられるのよ。……これ以上の復讐が、他にあるかしら?」
健一は、写真の中の無垢な赤ん坊を見つめ、嗚咽を漏らした。
自分の子供
本来なら希望であるはずの存在が、私の手にかかれば「自分を永遠に断罪する装置」に変わる。
「……嫌だ。そんなの、あんまりだ……。俺はどうなってもいい、でも、その子だけは……!」
「拒否権はないわ。…明日、里奈さんの両親がこの家に来る。あなたは『改心した立派な父親』として、彼らを出迎えるの。……もし失敗したら、その子がどうなるか……分かっているわよね?」
健一は、写真の上の赤ん坊の顔を、自分の血の気が引いた指でなぞった。
逃げ場はない。
愛するはずの我が子さえも、私の地獄のシナリオに組み込まれていく。
「……はい……。わかり、ました……」
健一の返事は、もはや人間の声ではなかった。
死ぬまで終わらない、親子の皮を被った「復讐の連鎖」。
新しい地獄の幕が、今、上がろうとしていた。