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「将暉さん?」
俺は不安になり彼の名を呼ぶと、将暉さんは顔を真っ青にして
まるで何か恐ろしいものを見たかのように目を大きく見開いた。
彼の瞳の奥には、恐怖と焦りが渦巻いており
その表情は、普段の冷静な彼からは想像もつかないほど動揺していた。
「もしかすると、大変なことになったかもしれな
い」
その言葉は、口から絞り出すような掠れた声で
まるで、これから起こるであろう最悪の事態を予感させるかのように、その声は重く響いた。
彼は俺の返事を待つ間もなく、嵐のように慌ただしく部屋を飛び出して行った。
その背中には、尋常ではない焦りと、切迫した空気がまとわりついていた。
彼の足音は、まるで何かに追われているかのように速く、俺の不安を一層煽った。
そんな彼を追いかけるように、俺も反射的に部屋を飛び出した。
廊下に出ると、すでに将暉さんは玄関に向かって駆け出していて、俺もその後を追った。
心臓が激しく脈打ち、全身に冷たい汗が滲んだ。
外に出ると、将暉さんはすでに車の運転席に乗り込み、エンジンをかけていた。
将暉さんは助手席の扉を開け、焦燥に駆られた声で俺を呼ぶ。
「楓ちゃん、今すぐ高円寺総合病院行くよ!早く
乗って……!!」
彼の声には、一刻の猶予もないという切詰まった響きがあった。
その声に、俺は有無を言わさず行動を促された。
俺は「は、はい」と短く返事をすると、考える間もなく急いで助手席に飛び乗った。
シートベルトを締めるのももどかしく、将暉さんの視線はすでに前方の道路に固定されていた。
彼の顎はきつく引き締まり、その横顔からはただならぬ焦慮が感じられた。
将暉さんがアクセルを強く踏み込み、タイヤがアスファルトを噛む音が響き渡る。
まるで路面を削り取るかのようなその音は、俺の耳に強く残った。
車は急発進し、あっという間に街の景色が後方に流れていく。
普段見慣れた風景が、まるでスローモーションのように遠ざかっていくのがどこか非現実的だった。
車内には、エンジンの唸り音と荒い呼吸だけが響いていた。
この尋常ではない状況に、俺の胸は不安で押し潰されそうだった。
一体何が起こっているのか
何が将暉さんをここまで駆り立てているのか、その答えが知りたかった。
「あの…一体何があったんですか?さっきの手紙に何が……」
俺は恐る恐る、焦りを隠せない声で尋ねた。
喉の奥がカラカラに乾き、声が震えるのを抑えきれない。
将暉さんは真剣な眼差しで前を見たまま、ハンドルを強く握りしめていた。
彼の指の関節は白くなり、その握りしめる力に、彼の内なる感情が表れていた。
彼の表情は、まるで何かに耐えているかのように硬く、その横顔からは、深い苦悩が滲み出ていた。
すると将暉さんは言葉に出すのも恐れるように口を開いた。
「兄弟のところに行くって書かれていた」
その言葉は、将暉さんの口から絞り出されたかのように重く、俺の胸にずしりと響いた。
まるで、その一言に全ての絶望が込められているかのようだった。
「以前じんから聞いたけど、兄弟は・高円寺総合病院に入院してるから多分そこに、じんもいる…」
将暉さんの声は、どこか諦めにも似た響きを帯びていた。
彼の言葉の端々から、仁さんの行動に対する深い懸念が感じられた。
その声には、仁さんのことを深く理解しているからこその、切実な思いが込められていた。
しかし、病院に行くというだけでどうしてそこまで焦っているのか
「で、でも、それって要するに兄弟のお見舞いに行ってるだけなんじゃ……それだけでどうしてそんなに慌てて…?」
俺は混乱し、将暉さんの言葉の意味を理解しようと必死だった。
ただのお見舞いで、なぜこれほどまでに将暉さんが取り乱しているのか、その理由が分からなかった。
俺の驚きと疑問が入り混じった声に、将暉さんはさらに言葉を続けた。
「……よく、友人の命日のときに言ってたんだ」
「〝いっそのこと兄弟を解放して、共に逝っちまうのもアリか〟って」
その言葉を聞いた瞬間、俺の全身に冷たいものが走った。
その声は過去の記憶を掘り起こすかのように沈痛で
「……っ!そ、それって…………っ!!」
背筋が凍りつき、心臓が大きく跳ね上がった。
まるで、冷たい水の中に突き落とされたかのような衝撃だった。
将暉さんは、俺の動揺を察したのかさらに言葉を重ねた。
「本当に愛していた楓くんすら手放した今、じんが自暴自棄になって一緒に死のうとしてる可能性は十分に有り得る…っ」
将暉さんはハンドルを握り締めて、悔しそうに唇を噛み締めた。
悲痛な叫びのようだった。
その声には、仁さんを失うことへの、そして彼を止められないかもしれないという
深い絶望が込められていて
彼の目には、深い絶望と、どうしようもない焦りが宿っていた。
その瞳は、まるで遠くを見つめるかのように焦点が定まらず、彼の内なる苦しみを物語っていた。
そんな彼の姿に、俺は何も声をかけることができなかった。
言葉を発することすら、喉の奥で詰まってしまう。
車内には、重苦しい沈黙だけが支配していた。
(うそ、だ……仁さんが、死んじゃう……?)
俺の頭の中は、その言葉で埋め尽くされた。
仁さんが、自ら命を絶とうとしているかもしれない。
その将暉さんの憶測が、俺の心を激しく揺さぶった。
全身の血の気が引いていくような感覚に陥り、手足が冷たくなった。
しかも、早まって兄弟を解放したことによって
仁さんが後悔する未来すら見える。
もしそうなったら、仁さんは取り返しのつかない後悔を抱えてしまうだろう。
「そ、そんなの…絶対にダメです……っ!」
俺は将暉さんに向かって叫んだ
仁さんがそんな選択をするなんて、絶対に許せない。
もしその気なら、俺は、彼を止めなければならない。
その一心で、車窓を流れる景色を睨みつけた。
一秒でも早く、仁さんの元へ。
その思いだけが、俺を突き動かしていた。
◆◇◆◇
数十分後…
長く感じられた時間が過ぎ、ようやく病院の前に車が滑り込んだ。
タイヤがアスファルトを擦る音が、やけに大きく聞こえた。
将暉さんがまだ完全に停車しないうちに、俺は焦る気持ちを抑えきれずにドアを開け、車から飛び降りた。
冷たいアスファルトが足の裏に伝わるが、そんな感覚も気にならないほど
俺の心は仁さんの安否でいっぱいだった。
ロビーに入ると、受付のカウンターに女性が立っているのが見えた。
その女性の姿が、まるで光のようにも思えた。
俺と将暉さんは、息を切らしながらその女性に駆け寄った。
俺たちの荒い息遣いが、静かなロビーに響き渡った。
「すみません……!入院されてる患者さんの中に、蓮見兼五郎という方がいると思うんですけど」
将暉さんの声は、焦りと不安でわずかに震えていた。
彼の視線は、受付の女性の顔に釘付けになっていた。
受付の女性は、突然の訪問者に少し驚いた様子だったがすぐにプロの顔に戻り、端末を操作し始めた。
彼女の指がキーボードを叩く音が、俺にはひどく長く感じられた。
彼女は少し考えてから、確認するように口を開いた。
「蓮見…蓮見様でしたら3階の303号室ですが…面会希望でしたらもう別の方が──」
その言葉を聞いた瞬間、俺の胸に安堵の光が差した。
まだ間に合うかもしれない。
希望の光が、俺の心を照らした。
「ありがとうございます…!」
俺は礼を言うと、彼女の返事を待つ間もなく、一目散に3階に向かって走り出した。
階段を駆け上がる足音は、俺の焦燥をそのまま表しているようだった。
一歩一歩が、仁さんへの思いを募らせる。
エレベーターホールに着くと、ちょうどエレベーターの到着を告げるチャイムが鳴り、扉がゆっくりと開いた。
中から数人の人が降りてくる。
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