今年も桜が咲いている。
お父さんの好きな桜。
ぼくも桜が大好き。
お父さんも大好き。
でも桜はやっぱり
散ってしまう。
「起きて。ねー、起きてってば!!」
「んっ…。」
「あ、やっと起きたー。遅いよ優くん。寝坊助さんだねー。」
目を開けると顔で視界いっぱいだ。。
俺を覗き込むハルの鼻先が俺の鼻先に当たりそうな程近い。
まだ視界はぼやけている。
「ハルか…。もしかして、俺寝てたのか?」
「もー、そうだよ。勘弁してよね。」
「うわっ、今何時だ?やべ、帰るのあんまり遅いと怒られる…。連絡もしてないし。」
うちの門限は6時だ。
帰りがそれ以降になりそうな場合は前もって連絡をしないといけない。
「大丈夫だよ、まだ4時半だよ?」
「え」
此処に来たのは確か4時だ。
結構寝たと思っていたがそうでも無かったのかも。
「それよりさ!!ユメ部へ入部おめでとう!これから活動内容を話すから聞いておくれ!」
まだ言っているのか…こいつ。
「いや、だから入らないって」
その言葉を聞いたハルはニヤニヤといたずらっ子のような顔をして
「ばばーん!!」
掛け声と共に俺の目の前に1枚の紙が突き出される。
なになに。
「入部届…御影、優…? 」
いやいや。まてまて。
どうしてこんなものが。
「お前ついに偽造でもしたのか…?」
「はぁー?全く。人聞きが悪いな。これは紛れもなく君が書いたんだよ?よく見て、君の字でしょ!」
確かにこの整った綺麗な字は俺の字…
じゃなくて。
「こんなの書いた覚えはないぞ…?」
「えー。でもぉー。実際に入部届はあるしぃー?これは部員決定だよね〜。って事で宜しく頼むよ!」
は??
いつの間にかめっちゃ面倒な事になっている…。
さらば。
俺の静かで平穏な学校生活…。
「まあ、でも本人が望んでないことを無理矢理させるのはアレだし…ここは賭けでもしてみるかい?」
「賭け?」
「うん、君が勝ったら此処を退部することを許してあげる。」
急に何を言い出すのだろう。
勝手に入部させておいて賭けだと…。
けど平穏な学校生活の為なら乗るしかないか…?
「ちなみに内容は?」
「お、ノリ気かな?」
1ミリもノリ気じゃないです。
「まあ、賭けの内容を話す前にこの部活の活動内容から話すとしよう。」
ああ、確かにユメ部って聞いたことないし。
そもそも学校公認じゃないから何をするかは気になっていたんだよな。
「ユメ部の活動内容はズバリ!『皆の夢のお手伝い』だよ!」
「夢の手伝い?それはまた大層な事だな。」
なんというか…、コイツが現実を見ない理想論者と言う事だけはわかった。
こんな事に付き合わされなきゃいけないのか?
「あ、勘違いしてる?夢って言ったってそんな大きなものを叶える訳じゃないよ?そんな事まず僕達に出来るものじゃないもの。」
「僕たちの活動は『お手伝い』それに小さな夢でも良いんだ。例えばそうだな…今やりたい事とかある?」
「帰りたい。」
「うん、即答だね〜。けど君のは参考にならないから僕が例を出すよ。」
自分から振ってきた話題にケチをつけないでもらいたい。
「例えば…『テストで1位を取りたい』だとか『一度は行ってみたいあの場所』とかそんなんで良いんだ。僕たちはそれを叶えずともサポートをするのさ。」
それも中々難しそうだが…。
今はそれよりも。
「んで、賭けって?」
「もー、急かさないでよ。知りたがりだねー。良いよ。教えてあげる。」
ハルは細くて華奢な人差し指をうすい桜色の唇に当てる。
「賭けの条件。それは君が《自分の夢を取り戻す事》さ。」
…?
「黙っちゃってどうしたの?」
「いや、理解が追いつかないっていうか…それはどういう事だ?」
夢を取り戻すってなんだ?
ハルは落胆したように
「そっかぁ…。ま、そうだよね。」
「君にはね、夢があったんだよ。まあ、覚えてないだろうけど。それを部活を楽しみながら思い出して貰うって感じかなー。」
「いや、いきなりそんな事言われても…。」
「ならさ、優くん。」
《ねえ、君は昔の夢を今でも覚えているかい?》
...。
俺の夢...?
思い出せない。
そもそも俺に夢なんて...
夢なんてただの偶像だ。
「って事で説明終わりっ!まあ、まだ聞きたいことはあると思うけど今日は帰って良いよ。また明日も待ってるね。」
「…ああ。」
もう頭がこんがらがっている。
今日のところはもう帰ろう。
それにしても。
『君は昔の夢を今でも覚えているかい?』
か…。
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