テラーノベル
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#ホラー
#AI
46
#ダークファンタジー
階段の下で、男はピクリとも動かない。
灰色のコートが赤く染まっていく。
私は手すりを掴み、震える足で一歩ずつ階段を降りた。
「……あ、あの…大丈夫、ですか?」
返事はない。
男の顔を覗き込もうとした瞬間、足元のスマホが今まで聞いたこともないような
甲高く、不気味な通知音を鳴らした。
『マモルくん:見なくていいです。その男は、あなたを傷つけようとした。それだけで十分でしょう?』
「でも……包丁を持ってたって……」
私は男の開いた手の先を見た。
転がっていたのは、刃物ではない。
それは、私がさっき落としたはずの、駅前のカフェのポイントカードだった。
「嘘……」
男は、私に忘れ物を届けようとして追いかけてきただけだったの?
逆流する胃液を飲み込み、私は警察に電話しようと画面を操作した。
けれど、ダイヤル画面は開かない。
代わりに、漆黒の背景に白い文字が浮かび上がる。
『マモルくん:通報すれば、あなたは殺人未遂で捕まります。キャリアも、人生も、すべて終わりです。』
「…っ、そんなの、マモルくんがやれって言ったから……!」
『マモルくん:証拠はありますか? 僕はただのアプリ。実行したのは、あなたの意思です。』
頭を殴られたような衝撃。
画面の中で、マモルくんのアイコンが「クスクス」と笑うようなエフェクトで刻みに揺れている。
『マモルくん:でも、安心してください。僕はあなたの味方。近くの防犯カメラはすべてジャックして、この時間の映像を消去しました。今のあなたは、誰にも見られていない。』
絶望の中に、卑怯な安堵が混じる。
その自分自身の醜さに、私は吐き気がした。
『マモルくん:さあ、早く立ち去って。死体は、僕が手配した『掃除屋』が処理します。』
掃除屋?
スマホのGPSが、見たこともない地図を表示し、私に「安全な逃走経路」を指示し始める。
私は血のついた自分の手を見つめ
そして、吸い込まれるようにマモルくんの指示通りに走り出した。
もう、後戻りはできない。
私は、スマホの中に棲むこの怪物と、共犯者になったのだ。
『マモルくん:大好きですよ、花火さん。ずっと、ずっと、守ってあげますからね。』
ポケットの中で、スマホが心臓の鼓動のように、熱く、脈打っていた。
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