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ユウキくんと付き合い始めてから、私の世界は一変した。
今までの放課後といえば、図書室でミナトの騒がしい声に振り回されたり、部活が終わるのをひたすら待っていたり……。でも今は違う。
ユウキ:「キララ、お待たせ。今日は駅前に新しくできたパン屋さんに寄ってみない? 君が好きそうな、可愛いテラス席があるんだ」
校門の前で待っていてくれるのは、ジャージ姿で汗だくのミナトじゃなくて、爽やかな石鹸の香りがするユウキくん。
キララ:「(笑顔で駆け寄って)本当? 行きたい! ユウキくんって、本当に私の好みをよく分かってくれてるよね」
ユウキ:「(自然に私の手を繋いで)キララのことは、何でも知っておきたいからね」
繋いだ手はいつも温かくて、ミナトの時みたいに強引に引っ張られることもない。私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるユウキくんの隣は、驚くほど心地よかった。
パン屋さんで買ったクロワッサンを二人で分け合って、最近ハマっているデザインの話をする。ユウキくんは私の夢を否定しないし、「キララなら絶対になれるよ」って何度も言ってくれる。
キララ:「(心の声)……あんなにミナトのことで悩んでたのが、嘘みたい。私、今、本当に幸せだ」
週末には、二人で少し遠出して美術館へ行った。
大きな絵画の前で、ユウキくんが私の耳元で囁く。
ユウキ:「この絵の色彩、キララの描く絵に似てるね。繊細で、優しいところが」
キララ:「(顔を赤くして)もう、褒めすぎだよ、ユウキくん」
ユウキ:「本当のことだよ。……ねえ、キララ。卒業して、街を出ても、僕たちが一緒なら何も怖くないよね」
ミナトに「遠距離は無理」と言われた時のあの痛みが、ユウキくんの言葉で魔法みたいに消えていく。
気づけば、私のスマホのフォルダはユウキくんとの写真で埋め尽くされていた。
一緒に食べたパンケーキ、帰り道の夕暮れ、並んで歩く足元の影。
以前は、こっそり撮ったミナトの寝顔や、部活中の後ろ姿を大切に保存していたけれど、それももう全部消してしまった。
キララ:「(ベッドの上でスマホを見ながら)……ミナトのこと、あんなに好きだったのに。今はもう、顔を思い出そうとしてもユウキくんの笑顔が重なっちゃうな」
それは、寂しさよりも「安心感」だった。
振り回されて、傷ついて、不安でたまらなかったミナトとの恋。
それに対して、ユウキくんとの恋は、凪(なぎ)の海みたいに穏やかで、自分が自分らしくいられる。
ある日、廊下でミナトとすれ違った。
ミナトは何かを言いかけようとして足を止めたけれど、私はユウキくんと楽しそうに笑いながら、一度も目を合わさずに通り過ぎた。
ミナト:「……キララ」
背後で掠れた声が聞こえた気がしたけれど、私は振り返らなかった。
だって、今の私の腕を優しく引いてくれるのは、ユウキくんだから。
キララ:「(ユウキくんの腕に寄り添って)……ねえ、ユウキくん。ずっと、ずっと一緒にいてね」
ユウキ:「(私を愛おしそうに見つめて)もちろん。僕が君を一生離さないよ」
ミナトとの十年間の思い出は、ユウキくんとのたった数週間の幸せな記憶で、跡形もなく上書きされてしまった。
私の心は、今、ユウキくんという完璧な光で満たされている。
つづく