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第20話:エルグの演説
王都・エルドリオ。
白金の尖塔が空を突くその中心、円形議会場にて、今日もまた“魔王問題”が議題に挙がっていた。
「話し合い? 魔王と? 馬鹿げている」
「侵略の準備が“静かすぎる”だけだ」
「奴は“武器を使わない侵略者”だ!」
怒号と嘲笑が飛び交う議場の中――
ひとりの青年が、静かに席を立った。
王子・エルグ・アスティア。
短く整えられた銀髪に、紺の長衣。憂いの宿る切れ長の目が議場を見渡す。
彼は迷わず、壇上へと歩を進めた。
「皆様、私は“敵意なき魔王”――トアルコ・ネルンと面会しました」
「彼は確かに魔王の力を持っている。
だが、剣を持たず、命令もせず、“誰かの笑顔を望んでいるだけ”だった」
「私はそれを――“不気味”ではなく、“未熟な希望”だと捉えたい」
「未熟でいい。けれど、その未熟な一歩に“応えよう”とする街も人も、今、確かに増えている」
重たい沈黙。
「では、王子はその“魔王”と共に歩むというのか?」
ひとりの老臣が問いかける。
エルグは短く頷いた。
「もし魔王を“否定の象徴”と呼ぶなら、
私は“可能性の象徴”として、彼と対話を続けます」
「それが……私の、“王になる覚悟”です」
ざわめきと、冷笑と、失笑。
それでもエルグは、凛として立っていた。
その胸の奥にあったのは、トアルコのあの言葉――
「相手が怒ってても、まずは話してみたいんです。 “どうしてそう思ったのか”を、ちゃんと聞いてみたいんです」
その日の夜、書簡が魔王城に届く。
封を切ったトアルコは、手紙の文末にあった一文を声に出す。
「“次は、私があなたの言葉を聞く番です”――エルグより」
トアルコは、そっと笑った。
「……あの人の方が、よっぽど“王様っぽい”なあ……」
「それでも、あんたの方が、王子よりも“人を変えてる”よ」
アルルがそう言って、ふっと微笑んだ。