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第7話:選定騎士団会議
場所は、エルドリオ連合王国・大議会堂。
白銀の柱が連なる厳かな空間。重厚な赤絨毯の上に、騎士団長や宰相たちが集い、中央にはひとりの若き王子が立っていた。
王子エルグ・アスティア――
蒼銀の髪を短くまとめ、正装の黒衣の胸元には王家の紋章。
切れ長の目元は冷静だが、その奥には常に「他の可能性」を探すような揺らぎがあった。
「――議題は、“魔王トアルコ・ネルン”の処遇についてだ」
団長が声を張る。
「戦意なしと称しているが、各国との接触は既に進行している。これは新たな形の征服ではないのか?」
「“やさしい魔王”など幻想です。甘い顔をして裏で牙を剥く、それが歴代魔王の常です」
会場に怒号が飛び交うなか、エルグはゆっくりと口を開いた。
「だが……今までに、“あれほど謝った魔王”が、存在したか?」
空気が変わった。
「北方での外交失言の際、彼は自ら焼き菓子を持って謝罪に来た。
しかも、“謝る理由をすぐに言葉にできる魔王”だった」
宰相が言う。「では王子、魔王を擁護するのか?」
「擁護ではない。だが私は、“彼が本当に敵なのかどうか”を疑っている」
一部の者たちはざわつき、反対の声を上げたが、
エルグは続けた。
「彼の“しあわせを願う”という言葉は、戦略にも、罠にも聞こえなかった。
むしろ、ただの……優しさだった」
遠くの窓から差し込む光に、王子の銀の髪がわずかにきらめく。
「我々は、敵意なき魔王とどう向き合うべきか。
この問いを棚に上げて、従来の剣を振るうだけでよいのか?」
議会は沈黙に包まれた。
その沈黙の奥で、確かに“迷い”と“可能性”が、芽生え始めていた。
その夜、エルグはひとり、議会の書庫でトアルコの記録を読み返していた。
> “しあわせは定義できない。でも、誰かを泣かせない努力は、きっとできると思うんです”
それが、魔王の言葉だった。
「――本気で、そう思ってるのか。君は」
呟いたエルグの目は、どこか憧れに似た光を帯びていた。