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ラスティが先導してきたのはクリス殿下の2番目の兄のギブソン殿下と近衛騎士だった。
クリス殿下はカーディナル皇太子殿下とともに兄であるギブソン殿下を出迎える。
ガフ領の騎士団も戦いの後始末をする作業を止めて、騎士団長を先頭に隊長や師匠と共に皆で整列をしてお出迎えをする。
カーディナル殿下の軍も綺麗に整列をしていた。
「ギブソン兄さん、遠路はるばるありがとうございます」
「クリス、元気にしているようだな。会いたくても会えないクリスが手紙で援軍のお願いをしてくれたんだ。来るに決まっているだろう」
馬から降りたギブソン殿下とクリス殿下は、お互いに肩を抱き合いながら再会を喜んでいる。
整列しながら、王族の兄弟の様子を一部始終見ていた師匠のシャムロックが、わたしの隣でとんでもなく驚いた表情をしている。
「師匠、顔に出ていますよ」
師匠が顎に手を置き、考えるようにボソッと呟くように教えてくれる。
「そんなに仲が良い兄弟とはいえなかったんだ。一体どうなったんだ?」
師匠は隠しもせず、ふたりの殿下を凝視している。
そして、先ほどから気になっていた戦場には不向きな一台の馬車から、見覚えのある男性のエスコートでひとりの女性が降りてきた。
カーディナル皇太子殿下の軍から、どよめきが起きる。
「カーディナル兄様!!」
わたしと年が一緒ぐらいの綺麗な女性がカーディナル皇太子殿下に駆け寄る。
カーディナル皇太子殿下が女性を抱き寄せ、泣きそうな表情をされた。
その様子を見て、隣国マッキノンのパナシェ姫なんだと推察した。
カーディナル皇太子殿下の妹君で留学という名目で実質、クリス殿下と交換で人質としてニコラシカに来ていた姫だ。
そして、その傍らでうれしそうにおふたりを見守るキール様。
パナシェ姫をエスコートしていたのはキール様だった。
以前にお会いした時より、より一層逞しくなられたように見える。
わたしは思わず声を上げそうになった。
師匠が横でわたしに声を上げるなとコツく。お陰でなんとか声を上げずに済んだ。
キール様はカーディナル皇太子殿下とパナシェ姫の感動の再会を見守ると、クリス殿下の元に行って、なにやら笑ってふたりで楽しそうに会話をされている。
懐かしい顔を見れた感動と、今でもクリス殿下とキール様のおふたりの仲が良いことがわかって、わたしも自然と笑みが溢れる。
クリス殿下がキール様と話しながら、わたしの方を向いた。
キール様がわたしに気づいて、手を振ってくださる。
わたしは笑いながら、小さく会釈をした。
今回のギブソン殿下の来訪は、クリス殿下とカーディナル皇太子殿下の作戦のひとつでもあった。
クリス殿下は、ガフ領に着いてからすぐにギブソン殿下に連絡を取っていたらしい。
隣国マッキノンのカーディナル皇太子殿下のクーデターの成功の知らせと、国境で王派軍とガフ領の騎士団が小競り合いになるのを見込み、最後の戦いになるからここで決めてしまいたいと、援軍を頼んだらしいのだ。
ここまではカーディナル皇太子殿下とクリス殿下の作戦通りの王派軍をカーディナル皇太子殿下の軍とガフ領の騎士団で挟み撃ちをする「袋の鼠計画」だった。
ギブソン殿下は可愛い弟の頼みだと、大張り切りで出発し、しかもカーディナル皇太子殿下を喜ばせようとカーディナル皇太子殿下の妹であるパナシェ姫を連れて出発したのだ。
もちろんそのことはクリス殿下に知らされてなくて、キール様がクリス殿下に連絡されたことで事態を知ったらしい。
そして、途中で王軍が二手に分かれたことがわかり、急遽「袋の鼠」計画の変更。
なにも知らずに国境に向かっていたギブソン殿下一行を砦に行き先を変更するのに、地理に抜群に明るいラスティに白羽の矢が立ち、いまに至ったとのことだ。
落ち着いてから、クリス殿下が語ってくれた。
ラスティはまだガフ領の騎士団の隊列に戻れず、近衛騎士の側で立っていた。
それでも同期の無事な顔を見れて安堵した。