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CASE 四郎
「どうした?四郎」
「なんかあったか?」
辰巳さんと𣜿葉さんが小声で尋ねてきた。
俺は数分後に起きる未来を予知した事を話す。
ガヤガヤと騒がしい園内の中で、俺達は違う意味で沈黙ししていた。
2人は顔を顰めながら、口を開き話し合いを始める事に。
「成る程、三郎のJewelry Wordsの能力で見えたのか。俺が謎の男に撃たれる…。しかも薫を庇ってるって事は、あきらかに薫を狙ってる奴が、ここにいるって事だな」
「ただの誘拐犯じゃないだろ。恐らく、Jewelry Pupil狙いだ」
𣜿葉さんの呟きに辰巳さんが反応し、言葉を放った。
「いや、辰巳。薫を狙ってやる奴に心当たりがある。お前も知ってる奴だぜ」
「もしかして、芦間か」
「だろうよ、泉病院でやり合ったが殺し損ねた。あの時に殺しておけば良かった」
そう言って、𣜿葉さんは舌打ちをする。
「芦間か…、久しぶりに聞く名前だな。四郎、芦間って男は𣜿葉と因縁がある男でな。何年か前は神楽組に所属してて、𣜿葉とバディを組んでた野郎だ」
辰巳さんが、簡単に芦間と𣜿葉さんの関係を俺に説明した。
「その男が𣜿葉さんの弟を狙う理由は?単なるJewelry Pupilだからって理由じゃないって事ですか」
𣜿葉さんが殺し損ねたって言っていたし、芦間と言う男の目的は単純ではなさそうだ。
「どうだろうな。今の芦間は椿の下に居るし、椿からの命令を受けてここに来る可能性もある。何にせよ、
𣜿葉は薫君の側を離れんなよ」
「辰巳、芦間に手を出すなよ」
「分かってる。お前が殺さないと意味がないだろ」
「芦間がJewelry Pupilの子供を連れてた」
𣜿葉さんの言葉を聞いた辰巳さんは目を丸くさせるが、すぐに元に戻った。
「Jewelry Pupilの子供を?椿が誘拐して連れて来たのか」
「辰巳さん、椿は他にもJewelry Pupilのガキを誘拐した事が?」
「俺の伝手で調べた程度だけど、親父に重傷を負わせた女子高生。あれは、椿が女子高生の親を殺して誘拐して来たらしい。誘拐して来た日に椿は女子高生の左目をくり抜いた」
俺の質問に辰巳さんが答え、頬を指で掻く。
「椿のやる事は昔から頭がイカれてんだよ。芦間とウマが合うのも納得がいく」
「おーい、兄貴!!何してんだよー」
𣜿葉さんの言葉を遮るように、薫が大きな声出しながら近寄って来た。
「悪い悪い」
「ったく、ほら兄貴のも取ったからっ」
薫は紫色のガラスの宝石が装飾された指を見せる。
「お、紫か」
「何だよ、違う色の方が良かった?」
「いや、薫の色が良い。ありがとな、薫」
そう言って、𣜿葉さんが薫の頭を撫でる。
「へへっ」っと小さく笑う薫は凄く嬉しそうだった。
「辰巳ー!!薫君にピンクの指輪取ってもらった!!」
「私は、水色の指輪を取ってもらったよ。四郎、見て」
美雨が辰巳さんに抱き付くと、モモも俺に抱き付いてくる。
「見て、四郎。四郎の髪色だったから、取ってもらった」
「他にも色があっただろ」
「これが良かったの」
モモは不貞腐れた顔をして、ジッと見つめてきた。
「モモちゃん!!辰巳が中を回ろって!!行こっ」
ギュッとモモの手を掴んだ美雨を見て、モモは優しく微笑む。
「ほら、薫君も!!」
「ま、待ってっ」
薫の手を掴んだ美雨が走り出してしまった。
その後を追い掛けるように𣜿葉さんが走り出す。
「あ、美雨お嬢っ。離れたら危ないですよ」
「早く早くっ!!時間がなくなっちゃう」
「離れたらダメですって!!」
𣜿葉さんの説得を聞かずに、美雨達は走り続ける。
だが、美雨一番の辰巳さんが俺の側から離れようとしない。
「辰巳さんは、大事なお嬢の所に行かなくて良いんですか」
俺の顔をジッと覗き込んだ辰巳さんは、眉毛を下げながら口を開く。
「四郎、血の気が引き過ぎだ。唇なんて真っ青じゃねーか。どこか悪くしたのか」
「大した事じゃないんで」
「お前は2人のJewelry Pupilの騎士になったんだろ?体に影響が出ていてもおかしくない。お前が不調そうなのを感じていたが…」
「体が不調なのは確かですが、心配する必要はありません」
辰巳さんの言う通り、体が重い感じはしていた。
頭もボーッとするし、口の中に血の味が広がっている。
「ゴホッ」
口を手で押さえながら咳を軽くすると、手のひらに赤い血が付着していた。
その血を見た辰巳さんは驚いた顔をする。
俺は何事もなかったように、手のひらに付着した血を拭う。
「四郎…、本当に大丈夫なのか?」
「肺に炎症を起こしてるだけなんで。そろそろ𣜿葉さ
ん達の所に行きましょう」
「あ、あぁ…」
俺と辰巳さんは足速に𣜿葉さん達の元に向かった。
黒猫ランド内は、人酔いしそうな程に溢れかえっていた。
芦間啓成とリンは手を繋ぎながら、ランド内のアトラクションを見て回る。
「ねぇ、啓成っ。今日は何でもして良いって本当?」
「あぁ、いつも我慢ばかりさせちまってるからな。特別に好きなのを買ってやるよ」
「やった!!どうしよっかなー。チュロスも食べたいし、ポップコーンも食べたいし…」
「両方買えば良いんじゃねーの?ほら、何味が良いんだぁ?」
芦間啓成はリンの手を引き、近くに設置されているチュロス売り場に向かう。
チュロスの味はプレーンとチョコ、イチゴの3種類だった。
「どの味がいんだ?リン」
「えっと…、じゃあイチゴ!!」
「お姉さん、イチゴ味を1本くれ」
リンの返答を聞いた芦間啓成は財布を取り出し、売り子のお姉さんに声を掛ける。
「ありがとうごさいまーす!!」
お姉さんは手際良く、猫の形をしたピンク色のチュロスを包装しする。
リンにチュロスを手渡しし、芦間啓成からお金を貰い釣りを渡した。
「ありがとう、お姉さん!!」
「楽しんでいって下さいね!!」
売り子のお姉さんは芦間啓成とリンに手を振る。
歩きながらリンは、イチゴ味のチュロスを美味しそうに頬張る。
「美味しい!!」
「良かったなぁ、リン」
「うんっ」
リンの満面の笑顔を見て、芦間啓成の脳裏に記憶が蘇っていた。
リンと芦間啓成が出会ったのは、3年前のとある日。
神楽組から抜け、椿会に所属して数日なった頃の事。
椿恭弥がJewelry Pupilの子供を攫って来たのだ。
芦間啓成は椿会に所属して間もない頃の事だった。
事務所のソファーに震えながら子供は座っており、怯えているのが一目で分かる。
「頭、そのガキは?どうしたんですか」
子供に対面するように座る椿恭弥の顔には、返り血が付着していた。
芦間啓成はその血を見て、人を殺して来たのだと悟る。
リンの服や体にも赤い血が付着していたからだ。
「あー。借金の取り立てに行った家に、Jewelry Pupilのガキが居たんだよ。ガキを寄越せって言ったんだが、抵抗したもんで殺して来た」
「そうですか。借金の方はどうするんですか?」
「あぁ、問題ない。死体好きのマニアに売り付ける事が決まってる。取引金額が借金の金額を超えたお陰で、借金の返済金に当てる事に出来た。借りた物は返し貰わないと困るからな」
そう言って、椿恭弥は煙草に火を付ける。
「芦間、Jewelry Pupilを見るのは初めてじゃねーよな」
「頭の命令で𣜿葉の弟を誘拐しようとした時だけですね」
「なぁ、芦間?まだ、その時の件のケジメは付けてなかったよな」
椿恭弥は後ろに振り返り、芦間啓成に微笑む。
その笑顔は優しげだが、どこか恐怖じみていた。
芦間啓成は背中に冷や汗が流れ出すのを感じながら、口を開く。
「はい」
その一言だけを言うのが精一杯だった。
椿恭弥の命令を受けたものの、芦間啓成は警察が来た為に失敗で終わった。
椿恭弥はなぜかその事を咎めずにいたのだ。
「なら、このガキをお前が面倒見ろ」
「この子をですか?」
「あぁ、俺はガキは嫌いなんだ。それとも、指か腕を切り落とされたかったか?」
「いえ…」
「おい、ガキ。今日からこの男と暮らせ」
そう言って、椿は子供の方に視線を向けた。
「っ…」
「おい、返事もできねーのか?ガキ」
ドンッとテーブルの上に足を置いた椿恭弥は、子供を睨み付ける。
子供は椿恭弥のオーラに萎縮し泣き出してしまった。
「はぁー。芦間、ガキと一緒に事務所を出て行け。泣
き声が頭に響きやがる」
苛々が募って来た椿恭弥は芦間啓成に目配せする。
芦間啓成は泣く子供の手を引き、部屋を足早に後にした。
「痛いっ、痛いよっ」
痛いと喚く子供の手を離し、頭を掻きながら言葉を吐く。
「はぁ…。おい、頭の前で二度と泣くな。今回は、お前がJewelry Pupilだから見逃して貰ったんだからな」
「ヒック、ヒック…ッ。殺されたくないよぉ…っ」
「だったら泣くな。冗談抜きで殺されるぞ。お前も親が目の前で殺されたんなら、分かるだろ。頭が本気だってな」
その言葉を聞いた子供は、先程の出来事を思い出しているようだった。
「ゔっ、お、おぇぇぇ…っ」
子供はいきなり嗚咽き、その場で吐き出した。
「おー、吐いとけ吐いとけ。この先、嫌ってほどに見るだろうからよ」
芦間啓成は吐き続ける子供を横目に見ながら、煙草を咥える。
「ヒック、ヒックッ。何で、僕が何をしたって言うだよっ」
「おい、ガキ。何、甘ったれた事を言ってんだ」
「えっ?」
「お前がJewelry Pupilとして産まれてきた時から、こうなる運命だったんだよ。まだ、目玉をくり抜かれてないだけマシと思え」
まだ5歳や6歳の子供にしては、残酷な運命だと芦間啓成は心の中で思っていた。
「運…、命?」
「あぁ、Jewelry Pupilは色んな人間から狙われんだ。それだけの価値があんだよ、Jewelry Pupilには」
「僕がJewelry Pupilだから?ママとパパが殺されたの?」
「お前は親に守られて、こうして息が出来てる。この先、もっと狙われるんだ。良いか、ガキ。お前は普通のガキじゃねーんだ。自分の身は自分で守れ」
芦間啓成の言葉を聞いた子供は、流していた涙が引っ込み唇を噛み締めている。
「お前、名前は」
「リン…、リンだよ」
「ハッ、女みてぇな名前だな」
これが芦間啓成とリンの奇妙な関係の始まりだった。
芦間啓成自身もリンを大事に思うとは…。
思ってもいなかったし、想像も出来ていなかった。
ただ、3年間の同居生活は2人にとって大きな変化に繋がっていた。
2人の同居生活は意味のあるもので、椿恭弥にとっては脅しの材料に過ぎなかった。
椿恭弥は芦間啓成を服従させる為に、リンに毒針が仕組まれた首輪を付けたのだ。
その結果、椿恭弥にとっては良い方向に進んで行く。
芦間啓成は椿恭弥の期待通りの働きをしたからだ。
今回の𣜿葉薫の誘拐計画も椿恭弥の思い通りだった。
「よしなり?啓成!!」
リンの大きな声を聞き、芦間啓成はハッと我に帰る。
「どうしたの?ボーッとして」
「何でもねぇよ。ほら、口の周りに…」
芦間啓成がリンの口元を指で拭おうとした時、数メートル先にいる人物に視線を奪われる。
𣜿葉孝明と𣜿葉薫の2人の姿を発見したからだ。
芦間啓成はスマホを取り出し、同行していたメンバーの1人に電話を掛ける。
プルルッ、プルルッ、プルッ、プッ。
相手が通話に出た事を確認してから、芦間啓成は話をし始めた。
「俺だ、𣜿葉薫を見つけた。予定通り、爆破させろ」
そう言って芦間啓成は、スーツのジャケットの内側ポケットからハンドガンを取り出した。
𣜿葉孝明と𣜿葉薫は手を繋ぎながら、四郎達の後ろを歩いていた。
「薫、何か乗りたい乗り物とかないのか?見てばっかりだけど」
「別にないよ。俺は美雨ちゃん達に合わせる」
「いやいや、それも良いけどさ?お前、本当はアレに乗りたいだろ?」
そう言って、𣜿葉孝明は指を刺したのはコーヒーカップの乗り物だった。
「べ、別に乗りた…」
「おーい、四郎!!コーヒーカップに乗ろうぜ」
𣜿葉薫の言葉を遮るように、𣜿葉孝明は四郎達に声を掛ける。
「コーヒーカップ?良いね!!美雨も乗りたいっ!!」
「じゃあ、乗りましょうか?」
「良いの?」
「良いに決まってますよ」
九条美雨と辰巳零士が話す中、モモは四郎の袖を引っ張り言葉を吐く。
「コーヒーカップって何?四郎」
「あ?アレだ」
「アレがコーヒーカップ…。クルクル回ってる」
「そう言う乗り物だからな」
「私、アレに乗りたい」
そう言ってモモは観覧車を指差し、四郎に訴える。
「辰巳さん、俺達は観覧車に乗って来ます。全体の様子も見ときたいんで」
「全体?」
四郎の言葉を聞いたモモがキョトンとし、首を傾げた。
「分かった。俺達はコーヒーカップに乗るよ。何かあったら連絡してくれ」
「分かりました。行くぞ、モモ」
「うんっ!!美雨ちゃんと薫君、また後でね」
辰巳零士達に頭を軽く下げた四郎は、モモを連れて観覧車の方に歩き出した。
𣜿葉孝明達はコーヒーカップの乗り場に向かい、停車しているコーヒーカップの乗り物の前で止まる。
「お、丁度良いタイミングで人が空いたな。薫、どのコーヒーカップが良いんだ?」
「…、紫色」
「分かった。ほら、先に乗れ」
「うん」
𣜿葉孝明と𣜿葉薫は紫色のコーヒーカップに乗り、辰巳零士はピンク色のコーヒーカップに乗り込む。
客達がコーヒーカップに乗った事を確認したスタッフ
は、マイクでアナウンスを始める。
簡単な説明と安全確認を行った後、愉快な音楽と共にコーヒーカップがゆっくりと動き出した。
「わわっ、動き出したよっ」
「お嬢、ほら膝の上に座って下さい。危ないですから」
「はーい!!」
辰巳零士に抱き上げられた九条美雨は、大人しく膝の上に腰を下ろされる。
後ろから抱き締められる形で、辰巳零士と九条美雨は楽しそうに笑う。
緩やかに動く景色を堪能する中、𣜿葉薫は𣜿葉孝明だけを見ていた。
その視線に気付いた𣜿葉孝明は、𣜿葉薫に微笑み掛ける。
「ん?どうした?」
「兄貴はどうして、俺にそんなに甘いの?」
「え?甘いかなー。そんな事はないと思うぞ」
「もしかして、あの時の事を気にしてるの?」
𣜿葉薫はそう言って、𣜿葉孝明の顔を見つめた。
「母さんと父さんが死んだのは、兄貴の所為じゃないよ。あの男が悪いじゃん。兄貴が背負い込む事はないじゃん」
「薫、あの時の事は俺にも責任はあるんだ。俺は責任を感じてるだけじゃないよ。本当にお前が大切なんだよ」
「兄貴…。俺は兄貴の事が大好きなんだ。時々、思うんだよ。兄貴が俺を庇って死んじゃうんじゃ…」
「薫、俺はお前を置いてしなない。お前を1人にさせねーよ」
𣜿葉薫の言葉を遮るように、𣜿葉孝明は強い口調で話す。
「兄貴…、そうじゃないよ」
「え?」
「何にも分かってないよ、兄貴は。何で、そうなるんだよ」
「薫…?どうしたんだ?本当に」
突然の言葉に𣜿葉孝明は戸惑ってしまう。
「俺は…、兄貴をお兄ちゃんを失いたくないんだよ」
「かお…」
泣き出しそうな𣜿葉薫に手を伸ばそうとした時だった。
ドゴォォォーン!!!
大きな爆発音と灰色の煙が、近くのエリアから立ち込める。
辰巳零士と𣜿葉孝明はお互いの顔を見合わせた。
CASE四郎
爆発が起きる数分前、モモとゴンドラに乗り込もうとしていた。
観覧車の形が黒猫の形をしており、黒猫ランド名物の観覧車らしい。
スタッフがドアを閉めると、ゴンドラはゆっくり上昇を始める。
少し揺れるゴンドラの中で、モモは上陸から見える景色を楽しんでいた。
ライトアップされたアトラクション達は、無数に浮か
ぶ星々のように輝く。
「綺麗…、星みたい」
「お気に召して良かったな」
はぁ、座ると少しは楽になるな。
「四郎と乗れて良かった。私、凄く嬉しい」
「そうか」
「うん。こう言う場所にも初めて来たし、楽しい。美雨ちゃんと薫君とも仲良くなれて…、嬉しいな」
「良かったな」
横目で上陸からの景色を見つめ、人々の動きを観察する。
今の所は一般客達が行き来してるだけか。
だが、数分後か数秒後には爆発が起きる。
これだけは確実に起き、何者かが俺達を狙っての犯行。
上から見たら何か分かると思ったが、望遠鏡もないのに分かる筈がなかった。
「四郎、何かあった?」
「いや、何もねーよ」
「そう?」
「あぁ」
スナイパーがいたとしも、黒猫ランドは死角になる場所が少ない。
姿を見られながらでしか、相手を狙えない筈…。
キラッと光る一筋の光が目に入り、嫌な予感がした。
グイッと咄嗟にモモの手を引き抱き寄せる。
「え!?四郎っ!?」
顔を赤くするモモの顔を上げさせないように引き寄せる。
「黙ってろ」
窓から見えないようにしゃがみ込んだ時、一筋の光の正体がすぐに分かった。
パリーンッ!!!
グサグサッ!!!
窓ガラスが割れ、ガラスの破片が背中や腕に刺さる。
スナイパーが狙って来やがった。
どこから撃って来た?
上手い所から姿を見せずに俺達を狙って来やがった。
「四郎っ、血、血が!!」
「平気だ。降りるまで頭を上げんなよ」
「もしかして…、狙われてる?」
モモに簡単に事の経緯を話すと、眉を下げながら口を開く。
「そんな事が起きるの?」
「三郎のJewelry Wordsの能力で見えたから、実際に起きるだろうな。三郎と連絡を取る」
スマホを取り出し、三郎に通話を掛けるとすぐに出た。
「四郎っ、大丈夫!?撃たれた?」
「Jewelry Wordsの能力で見えたんだな。問題ない、背中と腕にガラスが刺さっただけだ。それよりも、スナイパーがいやがる」
「大丈夫じゃないじゃん。スナイパー?どの方角から撃たれたか分かる?」
「大まかな角度しか分からねぇけど、南の方角からだ」
俺の言葉を聞いた三郎は少し黙った後、言葉を発する。
「四郎、黒猫城って見える?ほら、全体が黒で洋式の城なんだけど」
チラッと窓の外に視線を向けると、三郎の言う通りの城が見えた。
「あぁ」
「恐らく、あそこから撃って来たんだ。俺がスナイパーを仕留めてくる。四郎達は降りたら、人混みに紛れて」
「了解」
通話が切れた後、モモがガラスの破片を手に持っていた事に気付く。
「おい、何してんだ」
「四郎の傷を治すの」
「やめろ」
「でも…っ」
「余計な事すんな、モモ。お前の血を頼るつもりはねーよ」
「何で?何で、私の血を使わないの?」
モモが目に涙を溜めながら訴える。
その顔を見た瞬間、心臓がキュッと締め付けられた。
「私はっ、四郎の傷を治したいだけなのにっ。四郎は何で…?そんな事言うの?」
「はぁ、お前の体を傷付てまでする事じゃねーだろ」
「でも…っ」
「モモ、お前の体を傷付けたくねーんだよ」
俺の言葉を聞いたモモは、ガラスの破片が手からすり抜けた。
ドゴォォォーン!!!
その瞬間、大きくゴンドラが揺れ爆発音が響く。
ガッシャンッ!!
バキッ!!
爆発の衝撃で、ゴンドラの受け棒に装着されているネジが外れたのだ。
「っ、モモ!!」
「し、ろう!!」
俺はモモを強く抱き締め、ゴンドラの大き揺れに耐える。
だが、ゴンドラは勢いよく地面に落下しようとしていた。
俺は背を向け、モモを仰向けに抱き返え強く抱き締める。
ガッシャンッ!!!
強い衝撃を受け頭を強打してしまい、俺の意識がブツっと音を立てて消えしまった。