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レイは森の木陰で休みながら、手のひらに黒煙を遊ばせていた。 この旅路でいくつもの技を身につけ、多くの成長と痛みを経験した。
(レイ、お前はもうかなりの冒険者だ)
「いや、どれもこれも全部……シルフのおかげさ。俺一人だったら、とっくに挫けてたよ」
(ふ……そこまで言われてしまうと、私も照れるな)
穏やかな時間が、ふとした気配で遮られる。
――バキバキッ。
木立を踏み分け、濁ったような声が聞こえてくる。
「お、お前……まだ生きてたのか?」
現れたのは、かつて自分を裏切り暴力をふるったあのパーティだった。
リーダー格の剣士が、悪意丸出しの笑みを浮かべてレイを見下ろす。
「しぶといなぁ。あんだけ顔面殴ったのに、まだ息してんじゃねーか」
隣の戦士がにやりと笑う。
「あんだけ滅多刺しにしたのによ、しぶとい奴だぜ」
レイは全身が強張り、一歩後ずさる。
「や、やめろ……来るな……」
しかし彼らはレイの怯えたりない様子を楽しむかのように、なおも近づいてくる。
戦士が不意にレイの持っていた小さな本に気づき、ニヤリとした。
「ん?てかお前、生意気に本なんか持ってんじゃねーよ」
剣士が鼻で笑う。
「こんなゴミ不要だろ?」
戦士はレイの本をひったくると、そのまま豪快に破り始める。
ページが引き裂かれ、思い出と栄養の源だった本が、無惨に地面に散らばった。
「や、やめろ!それだけは!」
剣士は残ったページを、何度も短剣で滅多刺しにする。
レイは血が引く思いで、手を伸ばすも届かない。
――頭の中で頼りだったシルフの声が遠ざかっていく。
(……レ……い……)
「シルフ!? どうして……声が……」
「おいおい、こいつ本気で泣きそうなんだけど?」 「お前が口答えするとはなぁ。今ここで、もう一度殺してやるよ!」
剣士が剣を大きく振り上げ、レイを斬り捨てようと襲い掛かる。その瞬間――
「……やめろ!!」
レイの体から、凄まじい黒煙が噴き出した。森ごと包み込むような怒りの煙。
戦士が鼻で笑う。
「またそれかよ。いい加減見飽きたわ」
狩人がうんざりした顔で付け加える。
「もう煙たいんだけど……」
だがレイの目には、明らかな狂気と覚悟が宿っていた。
「……うるせぇ……うるせぇ!!」
レイは黒煙の中に手を突っ込み、瞬時に“アビス・ブレイド”を実体化させる。
「――死ねぇぇッ!!」
激しい怒りが体全体を突き動かし、レイは嵐のように敵へ斬りかかる。
剣士がレイへ切り結ぼうとするが、レイが剣を掴んだ瞬間、黒煙が剣全体を包み――
「な、なんだと……!」
見る間に剣は灰となり、地面に崩れ落ちた。
「お前らが知ってる“弱い俺”は、もうここにはいない……!」
光が走り、アビス・ブレイドが剣士の首筋を正確に切り裂く。刹那、剣士の頭がぐらりと落ち、体が崩れた。
「そんな、バカな……!」
戦士は衝撃でしばらく呆然としたが、拳を握って突撃してくる。
「てめぇぇぇ!!」
すでにレイは一体化した黒煙で姿を消し、気がつけば戦士の背後に回っていた。
「火傷じゃすまされねぇぞ――《グロウ・フィスト》!」
レイの炭化した腕が高熱を発し、戦士の分厚い鎧をオレンジ色に溶かして貫通。心臓部分まで焼き尽くした。
戦士は目を見開き――そのまま膝をついて倒れた。
残るは狩人のみ。恐怖に顔をひきつらせながら、弓を一気に5本放つ。
「く、来るな、化け物が……!」
「無駄だ――《シャドウ・イグニス》!」
レイが手を振ると、矢は全て黒煙に包まれて消滅した。
狩人は戦慄し、口を開けて後ずさる。
「や……やめてくれ……!」
レイは冷徹な目のまま狩人に向かい、手のひらを掲げる。
「……この世の悪は、俺が全部消してやる」
黒煙を狩人の開いた口に叩き込む。
「飲み込め――《シャドウ・イグニス》!!」
狩人の身体が内側から黒煙に侵され、瞬く間に灰へと変わり、消えた。
静寂。
森にはもう敵の気配はない。
レイは荒い息をつき、大地に膝をつく。
「……シルフ……俺……やったよ……」
だが、かつてと違う重い静けさが、レイの周囲を包んでいた――。