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古の奴隷商人曰く。
炭坑で働く奴隷は生きて帰れない。
なぜなら、炭坑には死がいっぱいだからだ。
落盤によって崩れた土砂に巻き込まれ、潰れ死ぬ者。
地中より湧き出るガスを吸い、中毒死する者。
水脈を掘り当て、冷水に押し流され、凍え死ぬ者。
故に、使われる奴隷は使い捨ての罪人ばかりだ。
アーカードによって引き上げられた価値もここでは何の役にも立たない。
幸運にも事故を回避できても、ロクな休憩も無く働かされ続ければ、誰であろうと過労で死ぬ。
命を使い潰す前提で運営される炭坑は、死罪になった者を最後まで活用する為に存在している。
「くそ、ゾゾが倒れた!」
「ガスだ! 近づくな! これ以上進むと死ぬぞ!!」
奴隷のオーク達が、穴の中で叫ぶ。
彼らは第一ルナックス戦争時に反乱を起こし、死刑となったものの。
当時、皇帝の座についていた男の恩赦によって処刑を免れ、奴隷としてこの炭坑で働いている。
だが、皇帝はオークがかわいそうだから恩赦を出したわけではない。
今回のオーク達の場合、迂闊に処刑すると魔族……特にオーク族との関係が悪化する懸念があった為、炭坑に放りこんだに過ぎない。
こうすれば、表向きは慈悲を与えたようにみせかけつつ、労働力として消費し、最後には殺せる。
一石三鳥の策だ。
別段、今に始まったことではない。
皇帝はこれまで幾度となく、自分に刃向かう政敵を炭坑送りにしてきた。
ヒューム、エルフ、グラスフット、ドワーフ。
いかなる種族であっても1年と保たずに死亡した。
その為、皇帝は「オークも死ぬだろう」と考えていたがオーク達は生き残った。
日々の犠牲はある。
それでも劣悪な環境に耐え、オーク達は全滅を免れていた。
「おい、オークども! 今日はこんだけしか進んでねえってどういうことだ!? サボってんのか!?」
酒焼けで顔を赤くした白髭の主人だ。
かつては帝都の要職に就いた身だったが、政争によって左遷され、今では炭坑の管理へ回されている。
若いオーク。
ゼルが頭を下げた。
「す、すみません。しかし、第7行路はダメです。ガスが吹き出して、ゾゾが死にました」
「はぁ? 勝手に死ぬんじゃねえよ! クズが! 」
八つ当たりに、投げられたバケツがゼルに当る。
ゼルは頭を下げたまま動かない。
「数を減らしやがって、交配だ! お前と、そこのお前! 今晩交配しとけ!」
「……はい」「は、はい」
第一ルナックス戦争は100年以上昔のことだ。
いくらオークが頑丈であっても、60年も経過すれば寿命で死ぬ。
オークが生きている理由はただ一つ。
次代のオークが生まれたからだ。
戦争に負け、捕虜となったオークの中には女もいた。
過酷な環境でもオークが死なないことがわかると、皇帝はオークたちを交配させ、子供を産ませた。
当人達の心情など、当然考慮されない。
まるで豚や牛のように繁殖を強要し、オークの数をコントロールしたのである。
この炭坑はさながらオークの養殖場だった。
「俺達はおもちゃじゃねえぞ……」
「やめろ、殺されるぞ」
それがどれほどの屈辱か、想像できるだろうか。
既に戦争に加担していたオークたちは死に絶え、現在炭坑で働くのは後の世代だ。
何も知らずに生まれてきたオークの子が先祖の罪を着せられている。
その上、終わりなどないのだ。
子々孫々に至るまで、彼らの尊厳は踏みにじられる。
それでも、死にたくなければ受け入れる他ない。
「おい、お前。文句があるのか?」
先ほど苦言を零したオークが青ざめる。
「ああ、いいな。お前らが交配するところ、しっかり見ておいてやる!」
「確か、親友がいたな? お前が豚のようにつながっているところを、そいつにも見てもらおうじゃないか。いい酒の肴になる」
赤ら顔の主人が笑う。
邪悪な支配者の笑みだった。
「何の為に俺がオーク語を学んだかわかるか? お前らをいたぶるためだ!」
「いいか、お前らは罪人! 生まれながらの奴隷だ!! 未来永劫、お前らに尊厳なんざねえん……」
銀剣一閃。
正義の刃が、主人の首を跳ね飛ばす。
「【神性魔術発動《マギリア・ファイア》!】」
――ズガンッ
爆裂した主人の頭部が、坑道に転がり、メラメラと燃えている。
唱えたのはローブで顔を隠した聖堂騎士だ。
脳を虫に食われてもなお、リズの剣筋に狂いはない。
呆気にとられるオーク達の前に、腹のでっぱった中年と老いた男が現れた。
「えっと、これ。聞えてる?」
『疎通魔法は機能しています。』
「坊ちゃん、ここは少し威厳がある感じで」
「まかせろ。第二ルナックス戦争じゃ、奴隷解放軍を率いていたんだぞ」
中年の男、ゼゲルは気を取り直してオーク達に言った。
「お前ら! 怖かったろう! 助けにきたぞ!!」