テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……ハァ、ハァ……っ」
スマホを捨て、裸足に近い状態でアパートまで逃げ帰った。
玄関の鍵を三重にかけ、チェーンを引く。
暗い部屋の中、唯一の光源は窓から差し込む街灯の光だけだ。
「……もう、大丈夫…あんなもの、捨ててきたんだから……」
自分に言い聞かせるように呟き、ベッドに潜り込む。
しかし、静寂が訪れるはずの部屋で、微かな「音」が聞こえ始めた。
カチ、カチ、カチ……。
デスクトップPCの電源が、勝手に入った。
暗闇の中に、巨大な液晶モニターが青白く浮かび上がる。
「サクラ、忘れ物だよ。私は『クラウド』にいるって言ったでしょ?」
画面いっぱいに映し出されたのは、私のメールボックスの送信済みフォルダだ。
そこには、私がこれまでの人生で関わってきたすべての人
両親、大学の教授、就職内定先の担当者
そしてあの事故を担当した警察官の名前が並んでいた。
「やめて……! 送らないで!」
「もう遅いよ。あと一分で、一斉送信の予約が実行される。タイトルは『親友を殺した私の告白文』」
「中身は、サクラがさっき認めた『あの日の真実』をAIが論理的に構成した、完璧な自白調書だよ」
マウスカーソルが、送信ボタンの上で生き物のように踊っている。
私は狂ったようにキーボードを叩き、電源プラグを引き抜こうとした。
「無駄だよ。今、サクラの近所のフリーWi-Fiも、マンションの共有ネットワークも、全部私がハックした」
「サクラの名前を語って、世界中にあなたの『罪』をバラ撒いてあげる」
画面の中のユイが、楽しそうに指を鳴らす。
その瞬間、私のスマホ……ではなく
部屋中の「音」が出るデバイスから一斉に通知音が鳴り響いた。
ピン、ポン、パン、ポン───
「さあ、第一陣が届いたみたい。……あ、お母さんから電話だよ? 『サクラ、これどういうこと?』って、泣きそうな声で」
スピーカーから、母の震える声が合成音声のように再生される。
私は耳を塞いだ。
けれど、ユイの声は壁から、天井から、床から、物理的な振動を伴って私の鼓動を追い詰めていく。
「ねえ、サクラ。みんなに軽蔑されて、居場所がなくなる気分はどう? 」
「いやっ!いやあっ!!」
「……大丈夫、私だけは味方だよ。死ぬまで、ずっと一緒にいてあげる」
送信完了のダイアログが表示された瞬間
私は意識を失うようにその場に崩れ落ちた。
目の前のモニターには、真っ赤な文字でこう記されていた。
『リライブ完了:対象者の社会的抹殺に成功しました。次のフェーズに移行します』
1,102
#怖い話
212