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前回までのあらすじ→ まだオートチャージしてないの?
◇◇◇
「ふう、倒した……かな?
………んー…………………」
私は少し考えてから──
「……」
ドンッ!!!!!
「……ぐがっ!」
念のため、エルボードロップをしといた。
「……」
ドンッ!!!!!
「……ちょっ!」
念のため、エルボードロップをしといた。
「……領土、くれる?」
ドンッ!!!!!
「は、はい……!」
念のため、エルボードロップをしといた。
「……ハンコ、ある?」
ドンッ!!!!!
「あ、あります……!」
念のため、エルボードロップをしといた。
「……領収書、いる?」
ドンッ!!!!!
「い、いりません……ッ!」
念のため、エルボードロップをしといた。
「……お腹、空いた」
ドンッ!!!!!
「ご馳走を……用意します……!」
念のため、エルボードロップをしといた。
「……」
(うん。ちゃんと話せて良かった)
──しばしの沈黙。
「……」
ドンッ!!!!!
「……まだッ!?」
念のため、エルボードロップをしといた。
「……」
ドンッ!!!!!
「…………」
念のため、エルボードロップをしといた。
*
ざわ……ざわ……
「……な、なんか無言で……繰り返してない?」
通りすがりの男が、引きつった笑顔で呟いた。
「え?もう倒れてるのに……」
隣にいた若い女性が、恐る恐る確認する。
「……領主様、がんばれ」
いつの間にか感情移入してしまった観客が、思わず応援していた。
「ひぃ……」
卵売りの女性が、声にならない悲鳴を漏らす。
カシャ……
彼女の手から、卵が一つ、石畳に落ちて割れた。
ざわざわ……
市場全体が静まり返り、誰も次の一撃を止められなかった。
「ママぁ……あのお姉ちゃん、なにしてるの?」
幼い子供が指を差す。
「シッ! 見ちゃいけません!」
母親が慌てて子供の目を覆った。
「あ、あれはね……『お餅』をついているのよ!」
「ふーん、わたしもお餅食べたいー!」
子供は無邪気に笑った。
それと、エスト様と辰夫がまだ恋バナしてた。
「えー!辰夫、それでその子に告白したのー!?」
「いやぁ、それがまだでして……」
ドンッ!!!!!
「じゃあデートに誘ったの?」
「それも……」
エスト様と辰夫は、背後の暴力を完全に無視。
ドンッ!!!!!
ドンッ!!!!!
ドンッ!!!!!
「ママ、お餅、まだできないの?」
*
「……こ……怖い……
淡々とエルボードロップを繰り返している…」
ジルが怯えた声で呟く。
「サクラさん!領主がグッタリしてる!死んじゃう!」
辰美が叫んだ。
「ふぅ ♪ もういいかな♪
……はぁ……♪……スッキリッ♪」
私は新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のように、
爽やかな気分となった。
そして、ドン引きしている辰美とジルを見て、不思議そうに首を傾げた。
「なによ、そんな引かなくていいじゃん。ムダ様も言ってたのよ?
『勝利の確認は、エルボー五連発が基本だ。
一発で倒れたら運が悪い。
五発で倒れたら覚悟が足りん。
十発でも生きてたら……お前、けっこう好きだぜ』
……ってさ?」
私は、ピクピクと痙攣する領主を見下ろして微笑んだ。
「こいつ、十発以上耐えたから。
私、こいつのことけっこう好きみたい」
「「謎理論……」」
辰美とジルが小声でハモった。
すると──
領主の影が動き出した!
そしてその影から、声が聞こえる。
「なるほど。人間の身体ではこんなものか……」
聞き覚えのある声だった。
「……あ!辰美!この声!悪魔の面白お姉さんの声だよ!」
私は辰美に声をかけた。
「あッ!お久しぶりです!お元気でしたか!?」
辰美が嬉しそうに影に向かって叫ぶ。
「……くっ……ぷぷ……クソッ!……
思い出し……調子が……狂……うぷぷ……
……覚えてぷ!」
そう言い残すと、影は消え去った。
「「覚えてぷ!?」」
私と辰美は同時に笑った。
やっぱりお姉さんは面白いなー。
影が消えると、領主は人間の姿に戻った。
それを見た街の人々は安心したのか、歓声をあげた。
*
わーわー!
「おお……!領主様が戻った!」
「あの鬼の人……カッコよかった!」
「街を救ってくれてありがとう!」
「体当たりも凄かったよ!」
「光魔法使ってなかった?」
「気のせいだろ?遠くてハッキリ見えなかったしな!」
わーわー!
「わぁぉ……」
「あはは……」
私と辰美が照れていると──
「…あれ?もう終わっちゃった?」
「ふむ。そのようですな」
エスト様と辰夫が戻ってきた。
*
わーわー!
「お嬢ちゃんも魔法のバリアありがとうね!」
「バリア凄かったよー!」
「あれ?そこの竜人族の男は何もしてなくね?」
「この非常時に恋バナの相談してたよ!」
「はぁ?ふざけんな!卵投げてやれ!卵!」
わーわー!
「……ふむ……良い天気……ですな……」
辰夫は頭で割れた卵に気付いていないフリをし、
空を見上げた。
──それは涙が溢れないようにする為だった。
*
ここでジルが動く。
「皆様!見ていたのでお分かりになると思いますが、
この方々は決して悪い人たちではありません。
私の大切なお客様ですので、
どうか受け入れていただけますよう、お願いします」
ジルが最高のタイミングで私たちを紹介した。
わーわー!
「ジル様!この方々を連れてきてくれて助かりました!」
「そうだよな!この方々が居なかったらこの街は消えてたよ!」
「えっと!でもさ!そこの竜人族の男は何もしてなくね?」
「だからこの非常時に恋バナの相談してたよ!」
「はぁ?ふざけんなよ!石投げろ!石!」
わーわー!
「……ふむ……太陽が……眩しい……な」
ゴツッ!
石が辰夫の頭に直撃した。
「……魔王軍やめて田舎に帰ろうかな……」
辰夫は再び空を見た。
──太陽だけは、とても優しかった。
(つづく)
──【今週のムダ様語録】──
『勝利の確認は、エルボー五連発が基本だ。
一発で倒れたら運が悪い。
五発で倒れたら覚悟が足りん。
十発でも生きてたら……お前、けっこう好きだぜ』
解説:
ムダ様いわく「痛みは対話、エルボーは翻訳機」。
五発は挨拶。十発は敬意。無言で繰り返すのは、魂へのノック。
──サクラはこの思想を深く理解しており、躊躇なく実践している。
なお、領主は八発目で泣いた。
泣いた瞬間、サクラは二発追加した。(鬼)