テラーノベル
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謙杜:「よっしゃー!今日は俺が晩ごはん作るでぇ!」
放課後のシェアハウス。
キッチンで元気にエプロンを巻くのは――長尾謙杜。
丈一郎:「え、大丈夫? 包丁持つとこ、反対ちゃう?」
謙杜:「ほら!また丈くん〜そんなこと言う〜!」
リビングには、久しぶりに明るい笑い声が戻っていた。
流星の件がひと段落し、みんなの表情にも少しずつ余裕が見え始めていた頃。
その中心に立って、**いつも通りの“明るい謙杜”**を演じていたのが、謙杜だった。
でも――
その夜、全員が寝静まったあと。
彼は自分の部屋で、机の引き出しをゆっくりと開けた。
そこには、小さなメモ帳と、黒い封筒。
そして、手書きのメモ。
「いつまで“元気キャラ”演じなあかんのやろ」
「誰もホンマの俺なんか興味ないんちゃうか」
「もう、疲れた」
ページをめくるたびに、負の言葉が積み重なっていた。
謙杜:(……誰にも言われてない。でも、“言われる前にそう思ってる自分”がいて、怖くてたまらんねん)
流星の件でみんなが神経をとがらせている中、
「自分のしんどさを言うなんて、甘えや」――そう思い込んでいた。
謙杜:(俺なんかのことで空気悪くしたくない。でも……ずっとこのまま、笑ってるフリって、しんどいな)
彼のスマホには、クラスのLINEがいくつも鳴っていた。
「謙杜くんってテンション高すぎて引くw」
「うるさいし空気読めんし、わざとやってるやろ」
「まあシェアハウスのピエロって感じ?」
“笑われる”のと“笑わせる”のは違う。
それを一番よくわかっているのは、本人だった。
謙杜:(俺、なんなんやろな)
そして――翌朝。
駿佑:「うわ、謙杜。顔色悪っ!」
謙杜:「え、マジ?うそ〜寝不足かも? 今日体育やから死ぬかも〜!」
そう言って明るく笑う謙杜。
だがその足取りは、昨日よりもほんの少し、重たく見えた。
その姿に、誰も気づかなかった。
まだ、この時は――。
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