テラーノベル
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地方ロケで同室になった夜。風呂上がりの渡辺翔太は、片手にタオル、もう片手に缶ビールを持って、ベッドの端にドカッと座った。
「あー、阿部ちゃん。お前まだ髪乾かしてねーの? 風邪引くぞ」
「うん、これメール一本返したら乾かすよ」
机に向かってパソコンを叩く阿部に対し、渡辺は「ったく、しょうがねぇな」と兄貴風を吹かせて立ち上がった。
「ほら、貸せよ。俺が乾かしてやる」
「えっ、翔太が?」
「なんだよその顔。たまには年上敬えよ。……いや、俺のほうが誕生日遅いけど」
「ふふ、ありがとう」
阿部は素直にパソコンを閉じ、ベッドサイドに座り直した。
渡辺はドライヤーを起動し、阿部の茶色い髪に風を当てる。ガサツなようでいて、指先は意外と丁寧だ。
「お前さ、根詰めすぎなんだよ。もっと頭空っぽにしとけよ」
「翔太みたいに?」
「あ?喧嘩売ってんのか」
「あはは、ごめんごめん」
阿部は気持ちよさそうに目を細めている。
しばらくして髪が乾き、渡辺がスイッチを切った瞬間だった。
阿部がくるりと体を反転させ、渡辺の腕を掴んでグイッと引き寄せた。
「……うおっ!?」
不意を突かれた渡辺は、バランスを崩して阿部の方へ倒れ込む。
気がつけば、ベッドの上で阿部に覆いかぶさられる形になっていた。
「な、何すんだよ阿部!」
「いや、翔太こそ」
阿部の顔が近い。
いつもの爽やかなアイドルスマイルではなく、その奥にある、少し冷たくて熱っぽい『男』の瞳が光っていた。
「自分の髪、まだびしょ濡れじゃん」
「え……あ、俺はあとで……」
「ダメだよ。人に風邪引くぞって言っておいて、自分が引いたら説得力ないでしょ?」
阿部は渡辺の手からドライヤーを取り上げると、今度は自分が渡辺を膝の間に座らせた。
抵抗しようとする渡辺の腰を、片手でしっかりとホールドして逃さない。
「ちょ、阿部ちゃん!近いって!」
「じっとしてて。……翔太の髪、サラサラで触るの好きなんだよね」
スイッチが入り、温風が渡辺の髪を撫でる。
阿部の細長い指が、頭皮をマッサージするように優しく動き回る。
その手つきがあまりにも完璧で、心地よくて、渡辺の口から「……んぅ……」と情けない声が漏れた。
「……気持ちいい?」
「……うるせぇ」
「ふふ。翔太はさ、強がってるけど、本当は誰かに構われたくて仕方ない猫みたいだよね」
耳元で囁かれた言葉に、渡辺の顔が一気に赤くなる。
阿部はすべてお見通しなのだ。
翔太が強がるタイミングも、甘えたいサインも、どう触れれば大人しくなるかも。
「……計算高いんだよ、お前は……」
「もー、ひどいなぁ。これは純粋な愛情表現だよ?」
阿部はドライヤーを止めると、仕上げとばかりに渡辺の頬にチュッと音を立てて口づけた。
「……っ!!」
「はい、おしまい。……で、次はマッサージしてあげようか?それとも、一緒に寝る?」
ニコニコと笑う阿部の笑顔は、もはや聖母なのか悪魔なのか分からない。
渡辺は真っ赤な顔で顔を覆い、小さな声で呻いた。
「……一緒に、寝る」
「うん、正解」
結局、頭脳派の彼には敵わない。
「やってやった」つもりが、完全に「世話を焼かれる」側に回ってしまった渡辺。
その夜、阿部の腕の中で朝まで熟睡することになる彼が、勝てる日は当分来そうになかった。
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うちもあべちゃんに髪乾かしてもらいたいー!しょっぴーずるいー! 続き待ってます