テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……ぼくが、あんなにたくさん、時間をかけてご飯作った理由も、やっぱり…全然わかんないんだよね」
純一の声のトーンが、信じられないほど低く冷ややかに沈んだ。
一瞬にして、彼の表情が絶望に染まっていく。
形の良い唇が激しく震え、見る見るうちに大きな瞳に涙が溜まっていく。
膝の上で持っていたクッションを、白くなるほどの力でぎゅっと握りしめたかと思うと
純一は堰を切ったように叫んだ。
「りひとさんのバカっ!!なんで…なんで覚えてないの……っ!!」
大粒の涙が一筋、純一の白い頬を伝って流れ落ちる。
次の瞬間
彼は持っていたクッションを、俺の胸元に向けて思い切り投げつけてきた。
「いたっ……ちょっ…純一!?急にどうしたんだよ、落ち着いて……っ!」
あまりの豹変ぶりに呆然とする俺に
純一は喉を引き裂くような、力いっぱいの声を絞り出した。
「今日……っ、今日、ぼくの誕生日なのに…っ!!」
純一が放ったその決定的な言葉に
脳天を殴られたような衝撃が走り、私は完全に思考を失って固まった。
「誕生日……。き、今日って…っ、!」
「そうだよ……!ぼくの誕生日だよ…っ!なんで忘れるの……っ!?」
その絶望に震える声を聞いた瞬間
俺の全身の毛穴が総毛立ち、血の気が一気に引いていくのが分かった。
頭のメモ帳に確かに書き残し、1ヶ月前にはあれほど完璧に計画しようと誓っていた
愛する恋人の聖誕祭。
それを、目先の仕事の忙しさにかまけて、当日の今日、完全に頭から消去させていたのだ。
恋人の誕生日を忘れてしまうなんて、男として、恋人として、あまりにも最低すぎる。
自分の身勝手さと愚かさが、心の底から許せなかった。
「ごめん、純一…本当に、本当にごめん……っ!」
慌ててソファから身を起こし、泣きじゃくる純一の細い肩を掴もうとする。
けれど純一は、俺の手を拒絶するように顔を激しく俯かせたまま
ぽろぽろと大粒の涙を床にこぼし続けた。
「朝から…朝からずっと、ずっと楽しみにしてたんだよ……っ。りひとさんが、お家に帰ってきたら、真っ先に『おめでとう』って、抱きしめて言ってくれるの、ずっと信じて待ってたのに……っ!」
「……っ!!」
胸を鋭利な刃物で抉られるような、激しい痛みが俺を襲う。
気づかないどころか
「何か特別な日だっけ?」などと
無神経な質問を投げかけ、いつも通りの呑気な帰宅をしてしまった自分自身の顔面を
今すぐ怒鳴りながら殴りつけたかった。
「純一…」
恐る恐る手を伸ばし、親指の腹で彼の涙を拭おうとすれば、その手を強く弾かれた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!