この作品はいかがでしたか?
100
この作品はいかがでしたか?
100
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
優しく父さんを包み込む。
俺の愛情は届いたのかな。
握られた拳が今までとは少し違う痛みがする。
あいしていたのに。
愛情を与えなくてごめんなさい。愛しているよ。
そんな虚空に放たれた言葉は誰にも聞こえなかっただろう。
朝起きたら父さんはいなかった。
部屋には焦っているのか乱雑に開けられたタンスに脱ぎ捨てられた部屋着。
きっとギリギリまで寝てて、焦ってたんだよな。
ギリギリじゃないけど、時間。
「そういえば最近同期の鈴木さん結婚するってよ。」
「へ?」
「何驚いてるんだよ。前々から付き合ってただろあの人」
いやいや、昼休みにからきスマイルから聞けるはずか無い言葉が聞こえてくる。
「いやまずお前が他人の話をしていることに驚いている。」
「失礼なやつだな。」
「どの口が言ってるんだよ。」
結婚……そうなのか。
「早くね?」
「めっちゃ幸せそうな顔でお言いふらしてたら俺の耳にも入るぞ。大学の時からの人らしい」
「へ〜」
いいなぁ。きっと幸せなんだろうな。
永遠の愛を誓って。
俺も、父さんと一緒に……
『頼むから、出ていってくれよ……』
……
「なぁスマイル。幸せが壊れそうだったらどうする?」
「唐突だなどうした。」
「いや、鈴木さん幸せそうだから、俺たちだって幸せだけど、それが壊れそうならどうするんだよ。」
「幸せならその先を考えない方が幸せだと思うのだが……そうだな、後腐れなく終わるのだったらな……」
「自分から壊して新しい幸せを見つけたらどうだ?」
やっぱりスマイルに聞いて正解だったのかもしれない。
定時より1時間くらい残業をして残業代を盛っておく。
きっと父さんは俺のために残業を沢山しているから、帰るのは俺より遅いんだろうな。
俺が稼ぐから父さんは休んでていいのに。
そう思いながら夕飯の食材を持ちながら扉を開けると、
父さんがいた。
「おかえり」
真剣な表情で綺麗になった部屋の椅子に座っている。
昨日のようになるのでは無いのか、と心配になる。
違和感しかないおかえりと、父さんがいるのに喜ばない心。なんでだろ。
「座れ。」
父さんの言うことは絶対だから仕方なく椅子に座る。
昨日の続きの話だろうか。
俺が何が言い始めるとうるさいと言われてしまうので黙っておく。
「きっとお前は俺を恨んでいるのだろうな。」
父さんの口から冗談が出てくる。
「え?」
「俺のしたことは許されない。お前を狂わせてしまった。」
本当に昨日から父さんは様子がおかしい
「昨日、その事に関してお前は怒っていたのだろう?」
違う。怒ってない。ただ愛情を与えただけ。
「俺も、してしまったことは覆せない。申し訳ないと思っている。でも、言い訳を言わせてくれ。」
申し訳無いとか思わなくてもいいと思うのに。
「許されないし、許さなくてもいい、でも、事情を知らないとお前も納得しないだろ。」
事情?ただ愛情を与えてくれるんだったらなんでもいいのに。
「聞いてから、行動して欲しい。頼むから。お前の苦しみは痛いほどわかった。」
ただ父さんと一緒に居れるならなんでもいいよ。
「それでな、まず、」
だから言わないで。
「俺とお前は親子ではない。」