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<バカ女にはキツく言っておいたし、一発殴っておいたから?本当にごめん。俺は美和のことを愛してる。たとえ今は難しくても、きっともうすぐ――>
<いつもそう。もうすぐだからって。結局別れてくれないじゃない>
リアルな会話、他人事じゃないのに。
まるで昼ドラとか深夜ドラマのシーンみたい。
<ごめん。俺がもっと上の立場になれば……。社長になれる日もそう遠くはないから!だからその時まで待っていてほしい>
<……。ごめんなさい。今日はこれで帰るね>
<ちょっと、待って!美和!>
二人の話はまだ続きそうだったが
「まぁ、証拠としては十分だな。不愉快だから、切るよ」
そう言って迅くんは画面を消した。
美和さんの様子が明らかに変。
ふぅと息を軽く吐いた後
「美月。ごめん。今日この後、用事があって。時間までここに居てくれていいからゆっくりしてな。もし殴られたところが痛み出したら言って?医者呼ぶ。亜蘭にも伝えておくから」
迅くんはそう言ってくれた。
忙しいよね。
「うん。わかった。ありがとう」
彼とはまた会えるのに。なんだか寂しい。
見送ろうと立ち上がると、頬に当たらないようにギュッと抱きしめてくれた。
「ちょっと充電」
彼のことがわからなかった時は拒んでしまった時もあるけど、今は彼の胸の中が幸せ。
彼が仕事に行ってしまったあと、ソファーで傾眠してしまった。
夜中あまり眠れていないのは、変わらない。
あんなベッドで熟睡できるわけがない。
帰ったら、孝介が待っている。
時間がきても<帰りたくない>そんな気持ちの方が強い。
弱音、吐いちゃダメだ。
仕事に行っていたと見せかけるため、ベガの退勤時間に合わせ帰宅をした。
鍵を開けると、孝介の靴があった。部屋に居るんだ。
リビングに行くと、孝介がテレビも見ずに座っていた。
「ただいま」
声をかけるも無言。
「ご飯、何時にしますか?」
その時――。
孝介が
「……。お前のせいだ」
そう言ったのが聞こえた。
今、お前のせいだって言った?私、今日は何もしてない。
「どうしたの?」
恐る恐る彼の後ろ姿に声をかける。
「お前のせいで、今日も彼女の様子がおかしかった。お前がこの前、美和さんに変なこと言うから、きっと傷ついたんだ」
カメラの様子を見ていたから、本当は私も知っている。
孝介は怒鳴るわけではなく、淡々と自分に言い聞かせているみたいだった。
「そうだ。そもそも全てお前のせいだ。お前のせいで彼女は……」
背筋が凍った。
あの後、何かあったの?
まさか、美和さんとケンカでもした?
だからこんなに機嫌が悪い……。というか、機嫌が悪いどころじゃない。
怖い、また殴られる。でも、ここでまた殴られたらカメラにも映ってさらに証拠が集まるかも。
ギュッと手を握り締める。
彼は立ち上がり、身体を私へ向けた。
「お前のせいだ!《《美和》》が俺と……」
完全に我を失っている。
そう思った瞬間、ソファーの前にあったガラステーブルを孝介は思いっきり蹴った。
《《美和》》なんて、私の前では言わなかった。
演技のためか私の前では<さん>を付けて呼んでいたのに。
一歩、二歩、後ずさりをして、彼から距離を取った。
その時――。
私の携帯が鳴った。
誰?
電話に出れる状態じゃない。
孝介から目線を外すことができない。
しかしコールは鳴りやまなかった。
すると
「おい、うるせーな。誰だ、電話の相手」
孝介が電話の方へ意識を向けてくれた。
震えそうになる手で、近くに置いてあったバッグの中から携帯電話を取り出す。
着信の相手は――。
「加賀宮……社長からだよ」
迅くんだった。
どうしたんだろ。孝介が家に居る時は、かけてくることなんてなかったのに。
「出ろ」
孝介が私に指示をした。
画面をタップし
「お世話になっております」
あくまで仕事のように対応した。
<逃げろ>
迅くんがとても低い声でそう言った。
「えっ?」
聞き取れるかどうかの小さな声。
孝介に聞かれないように配慮してくれてる?
予想もしなかった言葉に思わず素で返事をしてしまった。
<このまま電話をした状態で外に出て>
もしかしてこの状況、彼は知っているの?
孝介は私を睨みつけたままだ。
<俺と電話してるって、孝介《あいつ》はわかってるだろ?この状況で手を出してくることはない。携帯を持ったまま、外に逃げろ>
迅くん、この状況、カメラで見ているの?
「ええ。はい。わかりました」
私はバッグを持ち、外に出ようと玄関に向かう。
が――。
「どこ行くんだよ」
真後ろに孝介が立ち、肩を掴まれる。
どうしよう。
この距離なら迅くんの声も聞こえちゃうかもしれないし、なんて言えば……。
ドクンドクンと心臓の鼓動が聞こえる。
呼吸も上手くできない。
立ち止まり、動けずにいた時だった。
孝介の携帯が鳴った。
彼はポケットから携帯を取り出し、相手を確認している。
「父さん?」
お義父さん?このタイミングで?
誰でもいい。お願い、電話に出て!
「もしもし。どうしたの?」
孝介が電話に出た瞬間、私は走り出し、玄関から飛び出した。
靴など履いていられない。
「おいっ!!」
孝介が私を呼び止める声が聞こえたが、無視をした。
エレベーターを使わず、階段をかけ下りる。
「迅くんっ、助けて」
電話がまだ繋がっているため、彼に思わず助けを求めた。
<わかってる。今向かっているから。とりあえず、孝介《あいつ》に見つからないようなところへ隠れて>
息が切れる。
後ろを振り返る勇気がなかった。