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ベルリウム
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黄色の「自害だな」発言、めちゃくちゃ衝撃的でした……。あれまでの薄い返答とのギャップがすごくて、思わず息を止めて読みました。「協力関係」「上司と部下」って冷静に言ってたのに、いざ「いなくなったら」って想像したら、あんな重さが出るんだ……。 しかも本人は無自覚なところがまた怖くて、でもなんか切なくて。ローズの「気遣いも同情も毒」ってセリフ、すごくかっこよかったです。このカップルの距離感と温度差、すごく丁寧に描かれてて引き込まれました…!
ガチャ。ノブを捻る音がした。
軋む蝶番の音にふと顔を上げたローズは、来客の顔を見るなりふわっと瞳を細める。
「あら、来てくれたのね船長!」
テーブルクロスを挟んでローズの対面に座る水色も、ドアの方へ視線を向ける。そこにいたのは、今日の客人こと黄色。The Skeld 32号船船長。
船長帽を珍しく手に、軽く会釈をした後、彼は戸惑いの色濃く尋ねる。
「えぇと……ここ、で話すのか?」
「そうよ〜」
朗らかに笑った部屋の主人は、ファンシーな色合いの中から黄色を手招きした。恐る恐る足を踏み出した黄色を椅子に誘導して、あれよあれよと言う間に茶まで注ぐ。湯気を立てる紅茶のカップを覗き込む黄色に、小皿へ分けた茶菓子を差し出して、慣れた手つきで逃げられない段階へと連れてくる。
「ローズってそういうところ……」
「何かしら?」
「いや、好きだな、って」
「あらそう? 嬉しいわ」
目の前でさも当たり前かのように交わされる惚気の応酬に、黄色が僅かな気まずさを滲ませた。気がついたローズがこほんと咳払いをして、席に着く。
さて、と早速本日の議題を切り出す。
「それで? 自分の小豆に対する感情を整理したい……だったかしら?」
「いや、まぁ、正確には……紫が納得するような答えを作り出せれば何でも良いんだが」
言いながら、視線を彷徨わせては指を組み直す黄色。ローズは自作の茶菓子をひとつ摘みつつ、微笑ましいとばかりに告げる。
「ふふ、この際だしいいじゃない。あなたも納得できるようにしましょう?」
「ノリッノリだなローズ」
「こういうの、楽しくてつい張り切っちゃうのよね」
今日も今日とて野次馬メインになりそうな水色は、カウンセラーの頬を軽くつついた。やだもう、とかなんとか言いながら戯れ始める恋人たちの扱いに困って、黄色が部屋の内装を見回し始める。
船員ひとりにつきひと部屋与えられる私室は、基本的にどう使っても良い。どこぞのマッドクターのように爆発物を大量に保管するとかでなければ、そう、そんなんでなければ、模様替えの行使権は部屋の主人に委ねられるのである。
さてそれではローズの部屋はどうかと言うと、落ち着いた雰囲気を持ちつつも可愛らしい、そして愛の強い部屋であった。パステルピンクの壁紙に、真っ白なラウンドラグ。飾られた額縁にはローズと水色の馴れ初めの頃の写真が堂々と入っており、棚の上にも細々とした水色関係のアイテムがたくさんある。
ローズはチラッと黄色を横目で見つめる。女性の部屋にあまり足を踏み入れたことがない黄色は、―――否、そもそも他者の部屋を訪れたこと自体ほとんどない黄色は、立ち上がりこそしないものの、物珍しそうにあれこれを観察していた。
そんな彼にストップをかけたのは水色。
曰く、
「女子の私物ジロジロ見る奴があるか」
とのこと。その配慮の籠もった水色の発言に、ローズの好感度は上がらない。何故なら既に上がりきっているから。
要するに、黄色が着席してから本題に入るまでおよそ13分かかった。
とりあえず緊張をほぐすために始めた雑談がいつのまにか業務報告の往復にすり替わってしまい、ローズが頭を抱えるなどという事件もあったが、それはさておき。
「それじゃあまず、船長は委員長のことをどう思うのか、一言で教えてほしいわ」
いよいよ本題である。既に3杯目に当たる紅茶のカップを手に取りながら、ローズはワクワク黄色の言葉を待つ。
「くたばれば良いと思う」
「……あ、そう……」
思ったより容赦のない一撃が飛び出して、危うく取り落とすところだった。どうやらこの話はお茶を飲みながらするべきものではないらしい。
「あの……えっと。本当にそれだけ?」
「それだけだが?」
「本当に?」
「嘘偽りはない」
「なんか、船長がここまで振り切ってると奴も奴で可哀想だな……」
時計には短針と長針がありますと曰う時の顔をして、黄色は断言する。それはそれは躊躇いなく。
何の悪気もなく、あるいは悪気100%で「くたばれ」と言われる委員長に、流石の水色も同情した。せざるを得なかった。
「けど、紫に『そんなはずない』って切り捨てられたのよね?」
「ああ。まったくもって意味がわからないが、『あんたの想いはそれだけじゃないはず』だとかほざいていたな」
「なるほど……」
「……ま、クソウゼェとは言えあの紫がそこまで言うんだからな。間に受けてみても良いんじゃねぇか?」
「そうだな」
そう思ったからここに来ている、という一言を、彼はどうやら呑み込んだらしかった。言葉を選ぶが故の言葉足らずを、ローズはそっと汲み取って、提案する。
「船長ひとりだと『くたばれ』以上の整理ができないみたいだから……そうね、私たちが質問をするわ。だからそれになるべく詳しく答えてちょうだい」
「了解した」
くたばれ以上の整理ができない。まあ散々な文面であるが、実際そうなだけに悲しい。
当事者の黄色は何食わぬ顔をして、もう一度椅子に腰掛けなおした。
かくしてローズと水色による質問責めが始まった、わけだが……。
「まず、あなたと委員長の関係を言葉にした方がいいわね」
「上司と部下だな」
「……プライベートでは?」
「協力者だな」
「…………え、友達とかでもなく?」
「小豆に友達だなどと安易に言ってみろ。後悔する」
「あなたたちはどういう出会い方をしたのかしら?」
「小豆が俺を殺そうとして、和解して、協力関係を結んだ」
「待て待て待て待て待て」
「間に何があったの!?」
「委員長と今も一緒にいる理由、なんか思いつくか?」
「上司と部下だからな」
「……それで終わり!?」
「協力者だからな」
「おいこの船長ドライすぎるだろどうにかしろ!!」
とまぁ、地獄の光景が広がっている。
何しろ薄い。薄すぎるのだ。
どんな質問をしても大抵は表面的で対外的な返答であるが故に、そもそも切り込みようがない。本当に?と首を傾げても、本当だが?と首を傾げ返されるだけである。3回はやった。
そういうわけで、どういうわけなのか、ローズと水色のライフはもうゼロである。
しかし光明とは突然差すもの。
いや、仮にそれが本物の光明でなかったとしても。もどかしい現状を打破できるのであれば、とりあえずそこへ突っ込んでしまうのがひとの性ってものである。
「……それじゃあ、仮に委員長がいなくなったとしたら?」
「ああ、なるほどな。死ぬとかなんとかで実際に消えた場合か。これは想像しやすくて良いんじゃないか? いや、良くはねぇんだが」
お手上げ状態だったローズの口から、ふとぽつり零れた言葉を、水色が補った。ふたりはお互いに顔を上げ、頷き合い、そして同時に黄色を振り向く。
「「……」」
「…………」
ここに来て初めて、言い淀むでも考えあぐねるでもなく、カップへ目を落とす彼。自分自身と問答をするように、赤い水面に揺れる己を見つめる。
やがて答えが出たのだろうか、彼は静かに口を開いた。
「自害だな」
「……えっ今なんて」
「自害だな」
なんかとんでもない単語出てきた気がする。
ふたりの目は点になるし、思考はぴたりと停止する。
「じが……え、と、それは。自殺って意味で合ってるのかしら」
「そうだな」
「い、委員長がいなくなったら自殺するのかお前?」
「まあ、そうだろうな」
「「そうだろうな!?」」
いきなりすっ飛んだ黄色の思考回路を目の当たりにして、ふたりは目を剥いた。
何がどうなってそうなったのかさっぱりわからない。いっそ冗談かとも疑うが、例え冗談だとしても黄色は委員長に対してそんなこと言ったりしないし、それに彼の眼差しはどう見たって本気である。
これは詳しく問い正す必要がありそうだ、と水色は紅茶を飲み干し。中々面白そうね、とローズは冷や汗を流した。黄色だけが平然として紅茶を啜り、茶の味ならやはりローズがベストだなとか独り言ちている。
「そう、そうね……理由は、あるのよね?」
「まあ、それほど大したものでもないが」
「いや『お前が死んだら俺も死ぬ』の理由が大したものじゃないとかねぇだろ」
「別に後追いするとまでは言っていない」
不服そうな彼の声音を耳に流しながら、軽く溜息を吐く。ソーサーにカップを置いて、頬杖をついて、彼女は黄色の顔を覗き込む。
「……どうしてそういう結論に至ったのか、く・わ・し・く! 聞かせてちょうだい。よろしくね?」
お手伝い願望4割、個人的な興味4割、恐怖2割。事もなげに「わかった」と告げる黄色の言葉を、ローズは至極複雑そうな表情のまま聞き始めた。
10分後。
「……だから」
「奴がシェリフである限り、俺もやっと息ができるような……そんな感覚なんだ」
「「…………」」
「正直なところ、小豆が約束してくれた確かな未来がなければ」
「…………今にも気が狂ってしまいそうだな」
「「重い重い重い重い」」
ローズと水色の声がぴったりハモって、八分音符を繋いだ。
「いくらなんでも重すぎるわ、あなた常にそんな感情抱えて生きてるの!?」
「お前それでよく『くたばれ』とか言えたな!? どの口がで済まねぇよ嘘だろ!?!?」
「……?」
「無自覚なの!?」
矢継ぎ早に責め立てるふたりに対し、黄色はきょとんと首を傾げる。明け透けな本心は狂気に濡れているとまでは言わずとも、正気は存在し得なかった。少なくとも水色とローズは、あまりに鬱い背景事情も込みで、彼の「小豆への想い」を全て聞いたのだ。
「ね、ねぇ、今までの、全部本当なのよね……?」
「ああ」
「……船長、お前さ「シエル」
深刻そうな顔で何かを言い出そうとした水色の本名を呼ぶ。
「だめよ。気遣いも同情も毒だわ」
動きを止める彼の耳元に、そう囁いてから。ローズは素早く背を伸ばし、にこりと笑った。
「とりあえず、その手の問題は私たちの専門外よ。青なら聞いてくれると思うわ」
「え? そ、そうか……」
「わざわざ足を運んでくれてありがとうね。またお茶を飲みたくなったらいつ来てもいいのよ」
「い、いや、結構だ」
水色からの圧と殺意が籠もった視線に気を取られながらも、そう返す黄色。ローズは紺色の白衣を纏った駄医者を薦めながら、優雅にカップを手に取った。
その後黄色をサクッと追い出して、水色とローズはふたりでお茶会を続行したそうな。
……小豆と黄色の関係性について、今一度考えながら……。
船長→委員長の矢印がドス黒激重クソデカすぎてドン引きする水色とローズの話 完