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夜も更けた学校のトイレは、誰もいないはずなのに湿った空気が重く漂っていた。
小林彩花は、夜間補習の帰り道、どうしても我慢できず女子トイレに駆け込んだ。
扉を閉めると、金属の冷たい音が響き、部屋の中のわずかな照明が鏡に反射した。
「……誰かいる?」
声は出さなかった。だが、どこからかすすり泣くような音が聞こえた気がした。
彩花は用を足すことも忘れ、個室の奥で固まった。
そのとき、個室の床にぼんやりと水たまりが光った。
光の中に、足元に「小さな手」が見えた――いや、手の形をした水の影だった。
恐怖で息が止まりかけた瞬間、ドアがゆっくりと揺れた。
だれも触っていないのに、ドアノブがかすかに回る。
「出して……」
かすれた声が、個室の中から聞こえた。彩花は悲鳴を上げて後ずさるが、足が床に張り付いたように動かない。
鏡に映った自分の後ろ――そこには、顔のない少女がしゃがんでいて、濡れた髪がトイレの水に揺れていた。
手には……彩花のスマホが握られていた。
その瞬間、トイレ全体の水が沸騰するかのように泡立ち、個室のドアがバタンと閉まった。
次に扉を開けたとき、そこにあったのは、もう誰もいない女子トイレ。
ただ、鏡の端に小さく手形が一つ、淡く水滴で浮かんでいた――。
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