テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
橘靖竜
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夜の本社。
窓の外は雨だった。
月影真佐男はデータ室に一人でいた。
モニターにはログ。
花子。
村田。
ハヤト。
三つの波形。
静かに揺れている。
月影はそれを見つめる。
「……やっぱり」
この揺れは偶然じゃない。
花子の存在。
村田の空白。
ハヤトの再調整停止。
全部つながっている。
そしてそれは、
会社が作った安定とは
違う安定だった。
昔の話
月影は思い出していた。
まだ補助者だった頃。
利用者の一人。
名取静。
週1デートのプラン選択と、
疑似同棲のそれを選んでいた。
名前の通り、静かな人だった。
ある日、彼女は言った。
「あなた、優しいですね」
月影は笑って答えた。
「仕事です」
静は首を振った。
「違う」
そして言った。
「あなた、誰にも選ばれてない人の顔してる」
月影は何も言えなかった。
その言葉は、
図星だったから。
村田との出会い
それから数年後。
月影は運営側に回った。
その時、
村田孝好を見た。
新人スタッフ。
普通の男。
だが違った。
村田は
誰にも選ばれなくても壊れない。
むしろ、
自分から人を好きになる。
月影はその姿を見て思った。
(この子は
救われてる)
月影自身が持てなかったもの。
それを村田は持っていた。
だから守りたかった。
現在
モニターが光る。
新しい命令。
対象:村田孝好
大更新プロセス
実施予定:48時間以内
月影は目を閉じる。
やっぱり来た。
会社は
村田を
執拗に修正しようとする。
空白を消す。
依存を強化する。
完璧な商品にする。
それはつまり
村田の大きな長所、魅力ある要素を壊すこと。
月影はしばらく動かなかった。
そして、キーボードに手を置く。
改竄
画面に数値。
情動安定指数。
依存誘導率。
契約満足度。
全部高い。
だから会社は更新をかける。
月影は入力する。
数値を書き換える。
安定指数を下げる。
依存率を上げる。
契約満足度を微調整。
統計的に
更新対象から外れるライン。
送信。
確認画面。
> データ更新しますか
月影は一瞬だけ迷う。
もしバレたら
終わりだ。
だが思う。
名取静。
村田。
花子。
そしてハヤト。
この揺れは
壊してはいけない。
月影はクリックする。
送信。
データが更新される。
初めての対抗
月影は椅子にもたれた。
会社の数値を
意図的に歪めた。
初めてだ。
これで村田の更新は
延期される。
だが同時に、
別のログが動き始める。
データ異常検知
解析プロセス開始
月影は苦笑する。
「そりゃそうだ」
時間はあまりない。
その頃
村田は帰り道を歩いていた。
花子とのデートのあと。
空白がある。
でも不安じゃない。
少しだけ
楽しい。
村田は空を見上げる。
「変な一日だな」
彼は
まだ知らない。
自分のために
誰かが会社と戦い始めたことを。
外務省
同じ夜。
山田外相は資料を読んでいた。
新しいログ。
「村田孝好」
「更新延期」
山田は笑う。
「ほう」
秘書が言う。
「偶然でしょうか」
山田は首を振る。
「いや」
資料を机に置き、
「誰かが守っている」
一拍置いてから。
「面白い」
山田は立ち上がる。
「そろそろ会ってみるか」
村田孝好に。
次の波
その頃、本社。
佐伯の端末が警告を出す。
統計異常
内部改竄の可能性
佐伯はモニターを見つめながら、
ゆっくりと、
「……誰だ」
会社の中に
裏切り者がいる。
そしてその波は
確実に広がっていた。