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単位がギリギリでもなんとか大学を卒業した百合は、キャバ嬢から、北新地で西日本でも有数の高級クラブのホステスになっていた
その店には俳優に銀行家、それから有力な財界人たちが大勢詰めかけた、百合と出会う男は例外なく、彼女をベッドに誘っているが、しかし首尾良くそれが成功した運の良い男は誰一人いなかった
店の客はほとんどが四十代以上の裕福層で裏社会の人間も多かった
その頃の百合は欲望渦巻く艶やかな世界を・・・
まるで着飾った金魚の様に当てもなく・・・ふわふわと生きていた
伊藤冷凍食品代表取締役【伊藤定正】との出会いは、彼が中国の大使と一緒に来賓として招かれた金融に関するシンポジウムの会場でだった
この日は百合の店の綺麗どころが全員、そのシンポジウムに派遣されていた、場所が場所だけに雇われるホステスは教養があり、社会情勢に精通している一流でないといけなかった、そしてミス・ユニバースも顔負けの美貌が最低条件だった
定正は一代で冷凍保存食品技術で成功し、その元手で彼が幅広く手掛けた事業が大成功し、今や途方もない資産家だった、そんな彼を百合に引き合わせたのは百合の店のママだった
「こちら、伊藤定正さん、こちらがうちの店のNo1の百合です」
定正はじっと隣のソファーで水割りを作る百合を見つめていた、そしてやがて百合に向かって言った
「・・・さぞや・・・痛かったでしょうね?」
百合が定正に聞いた
「痛い?・・・何がですか?」
「あなたが天国から落っこちた時ですよ」
「はぁ?」
「あなたは我々に美とは何かを示すために天から遣わされてやってきた天使でしょう?大丈夫、私は口が堅いですから、私にだけ本当の事を教えてください」
百合は思わず声をあげて笑ってしまった
「なんてお世辞がお上手なんです?伊藤さん」
定正は大まじめに首を振った
「お世辞なんてあなたには似合いませんよ、どんな言葉もあなたのその美しさを表現するには不十分です」
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