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朝を迎え、月子は岩崎を起こしている。
昨日の今日ということで、疲れているのはわかる。そして、仕事も休みの日に当たっている。しかし、いつまでも寝ている訳にはいかない。
月子が、揺り起こしても、岩崎は布団を頭から被り、もぞもぞ動くだけだった。
相変わらずというべきか、岩崎の寝起きは、悪いを越えている。
「もう朝ですよ?」
流石に月子も我満の限界が来ていた。これではせっかく用意した朝餉の味噌汁が冷めてしまう。
「起きてください!!」
月子は、岩崎を大きく揺さぶった。
「あーー!うるさいぞっ!こっちは寝てるんだっ!!」
鬱陶しげに岩崎は大きく叫ぶ。
「きゃっ!」
そのあまりにも大きな声に、月子はびっくりして、尻餅をついてしまう。
「……きゃっ?!」
もそりと、岩崎が起き出した。
「二代目、お前なぁ……あぁ?!月子?!どうした!なんで転んでいるんだっ!!誰かに押されたのか?!」
頭はボサボサ、寝巻きの胸元ははたけきった岩崎が、月子の存在に驚いている。
そうか、と、月子は思う。ずっと、入り浸っていた二代目が、いつも岩崎を起こしていたのだ。それで、勘違いしているのだろう。いや、寝ぼけているのかもしれないが、とにかく!
「もう!!それだけ大きな声が出せれるなら、起きてくださいっ!」
「い、いや、だ、だからな、今、起きたたろう?月子?どうした?何か機嫌が悪いようだが?あぁ、二代目がまた、余計なことを言ったか……」
あくびを噛み締めながら、岩崎はポリポリ頭をかいて、月子を心配しているのかどうか、訳のわからない事を言い続けている。
「もう!私は、京介さんの大声にびっくりしただけです!芳子様の言い分がわかりました!」
「は?なぜ、そこで義姉上?!」
「なぜも、何も、関係ありません!」
月子は食事の用意ができているのだからと、岩崎に詰め寄った。
「う、うん、わかった。起きる。いや、起きているだろう?だから、月子、機嫌を直してくれ……それに、いったい、どうしたんだ?」
岩崎は、月子の剣幕に小さくなりつつも、つっと意地悪く口角を上げた。
「……旦那様。じゃなかったのかい?」
少し恥ずかしそうに、しかし、からかうような笑みを岩崎に向けられた月子は、あっと叫んで口元を袖で隠した。
「……え、えっと、それは、昨日……」
岩崎のことを、京介と名前で呼んでしまったと月子は真っ赤になった。一方、岩崎は、昨日といわれても、ピンとこないようで、押し黙ってしまう。
「……昨日のこと、覚えて……ないんですか?」
「覚えている。月子と口付けたことは、覚えているよ」
そうではなく……!
何故、岩崎は、いつもその様なことを平気で言えるのだろうかと、月子は更に真っ赤になった。
どう答えれば良いのだろうと思いつつも、この現状に、ひょっとして、肝心な所を覚えてないのかもと月子は、はっとした。
少量とはいえ、岩崎は酒を飲んでいた。そして、ほろ酔い気分のまま、床についたのだ。案外、会話すべては酒のせいで覚えてないのかもしれない。
月子は、正直、がっかりしていた。
そして、やはり、今まで通り、旦那様と呼んだ方が良いのだろうかと悩んだ。
「……月子?」
岩崎は、自分が何か不味いことを言ってしまったのかと、不安そうな顔をして月子の顔を覗き込んでくる。
「え、えっと、そ、その、昨日、き、き、京介さんと呼ぶように、仰られて……」
堪らなくなり、やんわりと、月子は岩崎へ昨日のことを告げてみた。
すぐに、ぎょっとした顔をしつつも、岩崎は、ただ、そうか、と呟く。
いやいや、そうか、だけでは、何が、そうか、なのか。
どうすればよいのか、ますます、わからなく、月子は、もじもじするばかり。ふと、岩崎を見ると、こちらも、ぷいと、よそ見している。
二人して、どうしようもなくなり、そわそわしていると、わーーんと、お咲の泣き声が響いて来た。
「ん?!どうした?!」
「お、お咲ちゃん?!」
確か、お咲は、その目覚めのよさから、毎朝、玄関前に立ち、新聞配達員がやって来るのを待ち受けているはずで、そして、泣き声ということは……。
「お咲!!大丈夫かっ!!月子!待っていなさい!お咲は、配達員に何か悪さをされたのかも知れない!!」
岩崎は慌てて、立ち上がると部屋を出た。
言われた月子も、ドキリとしつつ、しかし、今まで、朝からお咲が、あのように大泣きしたことはなかった事を思うと、やはり、配達員と、いさかいか、何かがあったかのかもしれない。
待っていろと、言われているが、月子も気が気ではなくなり、岩崎の後を追って部屋を出た。