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その後、藤澤はなんとか休みを取ることができた。
「行けそうです。どこでやる予定ですか?」
そう送ると、すぐに詳しい住所が送られてくる。
近くの公民館。
画面を見ながら、藤澤は小さく息をついた。
(……何話せばいいんだろ)
スマホを持ったまま、少し考え込む。
そのとき、通知がもう一つ届いた。
若井からだった。
「藤澤さん来てくれるの嬉しいです✨
楽器も、できればぜひ持ってきてください」
少しだけ柔らかい文章に、藤澤は目を細める。
「……OKです」
短く返して、スマホを置いた。
⸻
土曜日。
約束の時間ぴったりに、公民館へ着く。
建物の前で一瞬立ち止まって、軽く深呼吸をした。
(……大丈夫)
そう言い聞かせて、中に入る。
すると、すぐに人影が見えた。
「あ、藤澤さん」
元貴が手を振る。
「お、きたきた〜。こっち来てください」
少しラフな声でそう言って、奥へと案内される。
扉を開けると、そこには何人かの人が集まっていた。
楽器を持っている人がほとんどで、
ギター、キーボード、ケースに入った何か――
それぞれが思い思いに準備している。
(……すご)
一瞬、足が止まりそうになる。
でも、元貴に軽く促されて中へ入った。
「この辺どうぞ」
空いている席を指されて、藤澤は静かに座る。
まだ少し、空気に慣れない。
周りの会話を聞きながら、ただ頷くことしかできなかった。
しばらくすると、自然な流れで一人ずつ前に出る形になった。
楽器を演奏したり、好きな音楽の話をしたり。
笑い声が、ぽつぽつと広がる。
その中で、藤澤はあまり話さなかった。
人見知りもあって、自分からは言葉が出てこない。
でも、話しかけられれば――
「……あ、はい」
少し照れながらも、笑顔で答える。
無理に馴染もうとしなくても、
誰もそれを責めるような空気じゃなかった。
やがて、視線がこちらに向く。
「藤澤さんも、よかったら」
元貴がやわらかく言う。
一瞬だけ、手が止まる。
でも――
ゆっくりと、持ってきたフルートを取り出した。
静かに構えて、息を入れる。
音が、部屋に広がる。
少しだけ震えていた最初の音も、
次第にまっすぐ伸びていく。
さっきまでの緊張が、嘘みたいに消えていく感覚。
ただ、音楽だけに集中する。
――気づけば、最後まで吹き終えていた。
一瞬の静寂。
そのあと、ぱっと拍手が広がる。
「すご…」
「めっちゃ綺麗…」
そんな声が聞こえる。
藤澤は思わず視線を逸らした。
「……ありがとうございます」
少しだけ顔が熱い。
褒められることに、慣れていなかった。
それでも――
ほんの少しだけ、嬉しいと思ってしまった。
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