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羽海汐遠
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そろそろここから退却しなければ。
足を引きずるように歩き出し死体を埋めたそこから徐々に距離をとる。バレないといいが。
今になって削られた皮膚が痛みだし顔を顰める。余計なことをしやがって。
早く家に帰って、靴を脱いで服を脱いで、洗濯をして、風呂に入って、飯を食って、テレビを見ながら酒を飲んで、歯を磨いて、布団を敷いて、それで、良い夢を見よう。幸せな夢を見よう。
そんなことを想像しながら足を懸命に動かす。すると、目の前で何かがドサッと倒れた。ああクソ、邪魔だな。なんだなんだと思い目をやって、心臓がドッドッドッドッと嫌な音で響きながら加速した。
先程埋めた女の死体がそこにあった。
思わず後ずさる。どうして、だってさっき、だって、埋めて、隠して、さっき、隠したはずで。こんなところに来るなんてあり得ない、どうして、何故。そんな感情ばかりが脳を回る。
先程と変わらぬ光のない目、カサカサに乾いた唇、青白い肌、無理矢理と言っていいほどに塞がれた足の傷口、手跡がくっきり残った首元。悍ましい、気持ち悪い、なんなんだ、これは。
幸い、シャベルは未だ持っていた。変にあそこに残すより、持って帰るほうが安全だと思って。
だから、再び女を埋めることにした。今度はより深く、より狭く、這い上がれないように、必死に掘り続けた。
再び完成した穴の中に先程の女を埋めた。再び埋めた地面に雪をかぶせた。今度こそ、今度こそはと願いながら。
一番最初に埋めた場所を見に行く余裕なんてなかった。もしかしたら、見に行くときにまた出てくるかもしれないし、何よりこの疲労を、この恐怖を、この悲しさを、この怒りを、一刻も早く家に戻って洗い流したかった。
今度こそ、出てきてくれるなよ。女を埋めた雪につばを吐いて、急いでここから下山した。
コメント
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読ませていただきました。第2話、一気に引き込まれました。まず「良い夢を見よう」と願いながら足を引きずる主人公の、日常への執着みたいなものが凄く生々しくて…その直後に埋めたはずの女の死体が再び現れる恐怖の描き方がゾッとしましたね。穴をより深く、より狭くと掘り直す心理にも、「絶対に終わらせたい」という切実さがひしひしと伝わってきました。続きが気になります。