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「……という二人なんじゃ。たかが名前を呼べないだけじゃが、なんとかしてやりたい」
久しぶりに訪ねてきた旧友の頼みに、私はため息を付いた。
子持山の奥、小さな庵。わたくしは見習いの化け狸数人と半自給自足の暮らしをしている。たまに訪ねてくるのは、わたくしの霊力を頼みにするものくらい。
と言っても、千年来の旧友がこんなことを頼みに来るなんて思いもしなかったけれど。
「ひどい怨霊じゃありませんの。あんまりそういう霊は好きませんのよ」
「まあ、そりゃあ過去はな……ただ、今はいい人間に出会えて、順調に人助けをしていることも見てやってほしい」
「そうですわねえ」
葛の葉、今は九と名乗っている旧友が、かつて人間の男を愛し、けれど種族の違いでうまく行かなかったことは知っている。うまく行っている種族違いの二人を、できるだけ応援してやりたいのだろう。
……仕方がない。
「まあ、解呪はしてあげましょう。でも、それに必要な準備はそちらで全部してもらいますわよ」
「何が必要じゃ?」
「いろいろ! 紙に書きますわ。泊りがけになりますから、食事の世話も必要ですわね」
「精進料理なら、宛はある」
「精進料理じゃなきゃダメですわ、潔斎が必要ですもの。あなたも手伝ってくれますわね?」
「いくらでも手伝おう」
旧友は、自分の胸をどんと叩いた。
それから、解呪の仕方について話した。怨霊に近しい者を名前で呼びかけられなくなる術だから、わたくしはその近しい者と同じくらいの物理的距離を詰めて、怨霊としばらく過ごす必要があること。なので、一週間か十日くらいはその怨霊と一緒に寝泊まりしなくてはならないこと。
「後片付けが大変ですし、他の人を寝かせる場所がありませんから、この庵ではやりたくありませんのよ。そちらで場所を用意していただけませんこと?」
「うーむ、場所が借りられて寝起きも出来るところなら、斎野神社かのう」
「それから、その怨霊は解呪の間、一番近しい和泉豊とは接触禁止ですわよ。それもよろしくて?」
「うむ……伝えておく」
旧友は、微妙な顔をしつつ頷いた。うーん、これは、その怨霊が近しいものと接触禁止を了承するか懸念してますわね?
「この一月くらいはいつでも出向けるようにしておきますから、準備ができたらまた連絡をくださいまし。見習いの化け狸と最寄りの神社の神主とで、めーるとやらをできるようにしておきますから」
「すまぬ、頼む」
旧友は、深く頭を下げた。
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コメント
1件
# 感想 化け狸の視点、新鮮でめっちゃ良かったです!「精進料理じゃなきゃダメですわ」とか口調が丁寧で可愛いのに、頼み事にはしっかり条件つける大人な感じがツボりました。旧友・葛の葉の過去をチラ見せして「うまくいってる種族違いの二人を応援したいんだな」って温かい気持ちになった…。解呪の条件(接触禁止とか)が細かくて、本編の準備段階って感じがワクワクします。次が楽しみ!