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一週間の仕事を終えた恵菜は、ロッカールームへ向かい、ユニフォームから私服に着替えると、早速スマホをバッグから引っ張り出した。
画面には通知センターのダイアログが、『メッセージ受信:谷岡純』と表示されている。
(あ……谷岡さんからメッセージ来てる!)
彼女は、さっそくアプリを開き、純からのメッセージを確認した。
『恵菜さん、一週間お疲れさま。それから…………今日の俺のスーツ姿……どうだったかな……?』
普段、カフェに来店する時の彼は、濃紺の作業着に身を包んでいる。
純のビシッとしたスーツ姿を思い出し、恵菜は、うっとりとした表情を浮かべていた。
「それはもう素敵でしたよ……」
心の声が唇から無意識に零れ、彼女は、ハッとしてロッカールーム内を見回した。
幸い、恵菜しかいない。
(危ない危ない。こんな独り言を言ってたら、怪しい女になっちゃう……)
彼女は、すぐ返信ボタンをタップして、メッセージを打ち始める。
『お疲れ様です。お昼に見た谷岡さんのスーツ姿、すごく新鮮で素敵でした……!』
内容を確認して送信ボタンをタップし、恵菜は帰り支度をして職場を後にした。
ファクトリーズカフェからパークの正門まで、笑顔が滲みそうになるの堪えながら歩いていく。
通行許可証を警備員に見せ、『お疲れさまでした』と挨拶を交わして大きな門を通り抜けた。
こんな事を習慣にしたくはないけど、元夫の勇人が張っているかもしれないので、周囲をじっくりと見回す。
どうやら今日は、勇人は張り込みしていない。
(良かった……。早く帰ろう)
バッグを肩に掛け直し、正門前の交差点で信号待ちしている時。
「恵菜さん」
嫌というほど聞き覚えのある女性の声に、背筋がゾクリと凍り付く。
(こっ…………この声……)
もう一生聞く事はないだろう、と思っていた声の主へ、恵菜は、恐る恐る顔を向けた。