テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ワシントン・ダレス国際空港ではひとつの都市伝説が空港員の中にある。
今年から働き始めた新入社員のメグはその噂を『その日』の2日前に聞いた。
『7月4日 数年おきにここワシントン・ダレス国際空港に顔色の悪い紳士がイングランドから来る。』
というもの。
別に、たまたまではないか?とメグは思っていた。しかし、それはなんとも不思議な話であったのだ。
「それはここ10年の話じゃないの。ここで1番の年上のジョージが働き始めた時から既にあった噂らしいわ」
そうメグの先輩が言ったからだ。ジョージは70歳。となれば、50年以上もあった話である。紳士の見た目は少なくともその50年1ミリたりとも変わらなかったらしい。
好奇心を持ったメグは様々な先輩、同僚に休憩時間などを利用して聞きまわる。
「別に数年おきって決まってるわけでもないらしいわ。5年連続で入国した時もあれば、そのあと20年も来なかった時もあったらしいし。」
「あまりにも顔色が悪いもんだからこっちはハラハラしてるよ。あ!そうそう思い出した!僕が入社してすぐの年にその人来たんだ。でも待合室で急に血を吐いて運ばれて行ったっけなぁ。僕は若かったから関わることはなかったんだけどね 」
「彼は来た時に毎回椅子に座って待ってるの。最初はタクシーでも待ってるのかと思ってたわ。でも必ず彼には迎えが来ていた。髪の長い男性の時もあればメガネの大柄な方もいてたり。前,,,,,,のときは小柄な日本人のような人がいたかしらねぇ。」
そしてメグはこの度退職することにしたジョージに聞きに行った。
「どうして気になるんだい?」
まずそう言われてメグははっきりと答えた。
「もし、彼が無理やり来ていたとしら残念だと思ったんです。せっかく来たのだから楽しんで欲しい。万全な体調でこのアメリカを楽しんで欲しいんです。」
「,,,,,,うん。やはり国の窓口である空港員はそれでいなくてはな。さぁ話してあげよう。あと2日後の7月4日に向けてね。」
ジョージはゆっくりと話し始めた。
「入社してしばらく経った時彼はアメリカへ来た。噂通りの顔色の悪さであった。普通ならばその様子を察して手の空いているものが介抱にいくものだ。しかし、私たちは誰が行くのかゲームで決めていたんだよ 」
「え、えぇ?なんでですか?」
「もちろん、気味が悪いからさ。私も何個も上の先輩に聞いたが彼はずっと、ずっと姿が変わらない不老不死だと言われていた。それに、前来た時は20年前とかなんとかで覚えている者は薄い薄い、彼方の記憶だったものだから私たち若者は噂に頼るしかなかった。噂の彼はアメリカの独立を毛嫌いしている高貴なイングランドのご貴族様であったから」
「でも独立は300年前ですよ?」
「それでも歴史は変わらないだろう?また、血を吐くとまできたものだ。もし病気なんだったりしたら尚更関わりたくもない。不老不死の人間、何世代も血の濃さで姿が変わらない余程の血筋の方なのか、関わらない方が得とまできた。」
「ジョージさんは彼に話しかけたりしたんですか?」
「いいや、幸運というべきだったのか私はゲームに勝ち続けて彼に関わることはなかった。代わりに彼に話しかけた同僚に聞くとそいつは彼を『不思議な方』といった。イングランドの紳士であることには違いなかった。しかし、噂は所々否定していた。でも信じていた者が大勢いたもんだからその証言もなくなったけどね」
ジョージはゆっくりと立って飛行機が次々と入ってくるのを眺める。
「でもきっと彼は自ら望んでここに来ているはずだ」
7月4日
空港員達は皆ソワソワしていた。それは彼が来るかどうかの賭けをしていたからだった。メグらジョージと話してからというものの、少し虚無感のようなものに浸っていた。だから賭けには参加しなかったが、メグも自然とソワソワしていた。
メグは迷子の小さな女の子を見つけた。
「こんにちはお嬢さん。ママは?」
「分からない,,,,,,どっかにいっちゃったの」
涙をいっぱいにためた女の子の手を握り歩き出す。
「一緒に探してあげるわ。家族は一緒にいないとダメだもの」
そして目線を前に向けた時だ。
彼がいた。
噂通り顔色は悪い。酔ってしまったような顔色ではない。ほんとうに体調が悪い時の色だ。しかし、スーツは1級品。カバンも良い、しっかりとした革の物だ。
メグは見とれていた。それは他の人も同じだ。しかし彼は気にすることも無くいつも通りの椅子に座った。メグは内心急ぎながらも女の子の親を見つけ出し彼のすぐ近くへ寄って行った。そして声をかけようとする。しかし横から黒い影が襲ってきたのが見えてUターンをした。持ち場について同僚とともに見守っている。
「なぁに?声はかけないの?」
「だってあの噂のメガネの方がいるじゃない。クルーがゲストの邪魔をしてはいけないし、それに楽しそうに話してるわ」
「う、うーん,,,,,,私には彼が怒ってるようにも見えるけれど,,,,,,?」
彼らは少し談笑した後に立ち上がった。移動するようだ。彼は変わらずハンカチを口に押えていた。
「あーあ。私来ないに賭けちゃったじゃない!最悪よ,,,,,, 」
「,,,,,,あれ?忘れてっちゃってる。椅子に何か置いてあるじゃない。私行ってくるわ」
「,,,,,,え、?えぇ!?メグ!?」
構わず走り出して椅子の上に置いてあるものを拾い全速力で走り出す。そして彼らに追いついた。
「わ、忘れ物でございます」
一瞬その空間の時が止まったが彼はメグの持っていたものを見て穏やかに理解してくれ、少し慌てながらもすぐに私に頭を下げた。
「あぁすまない。どうも、ありがとう優しいレディ」
「キザかい?俺の国でそんなこと辞めてくれよ!」
「紳士として当たり前のことだっつの!ゴホ」
「ご体調は宜しくないのですか?顔色が良くないように見えます。どうぞ空港員に遠慮なく仰っていただければ救護室へご案内致します」
反射的にいってしまった。失礼かと思って冷や汗をかいてしまったが、逆に彼らは優しく微笑んだ。
「ご心配ありがとう。大丈夫だ。良いフライトで心地よかった。」
手を振って彼が再び出口へ向かおうと体の向きを変えようとしたときだ。メグの頭にジョージの言葉が蘇る。
『どうして気になるんだい?』
『でもきっと彼は自ら望んでここに来てるはずだ』
メグは彼らに向かって張り上げる。
【本日「も」ワシントン・ダレス国際空港をご利用いただき、誠にありがとうございました!アメリカは、とてもいい国なんです!楽しくて、自由で!とても美しい国なんです!悲しいことだって辛いことだってあるときも、あるんです。でも、それでも、
私はこの国に生まれてきて良かったって、 『幸せだ!』って思っているんです!どうか、 我が祖国、アメリカを楽しんでください!】
大声で言ってしまって全て言い切り、少し息切れしていたときにメグはハッとなって口を手で覆った。他の客もメグを見ていた。明らかに迷惑であっただろう。恐る恐る彼らの方をみた。
しかし、メガネの男性は一筋の涙を流していた。
そして紳士の彼はそのメガネの男性の肩を優しくポンポンと叩きそして持っていたカバンを置いてハンカチをポケットにしまった。男性はメガネをとり目を抑えて顔を下に向けてしまった。やってしまったとメグは冷や汗ばかりをかいてしまう。そして彼が近づいた時メグは怒鳴られると覚悟して目を閉じた。しかし、その時に感じた先は手の甲だった。
紳士の彼の暖かくも少し冷たい手がいつの間にか手袋をとり、メグの手をスっと支えキスをして、そしてまた微笑み返す。
「あぁ。全くその通りだ。ありがとうレディ」
彼らの姿が見えなくなった頃、空港内は拍手に包まれた。メグは上から注意を受けたものの、少しだけ上司から褒めの言葉を貰った。
それからメグはジョージと同じく70歳までワシントン・ダレス国際空港で働く。その間に何回も彼らを見たが彼らとか関われたのはこの時だけであった。だが後にメグは語る。
「あんなに幸せそうな兄弟、見たことないわ」