「前田君。気をつけてね」
「行ってきます。今日、沙羅は?」
「今日は友達とカラオケだって。ちょっと遅くなるみたいよ」
「そんな……まだ高校2年生なのにカラオケなんて」
「あなたは真面目過ぎるのよ。カラオケなんて今どき普通でしょ? それに沙羅はあなたに似てしっかりしてるから大丈夫よ」
僕の妻は、京都の実家近くに住んでいた幼なじみ。
どちらかといえば、沙羅は君に似てしっかり者なんだと思うけど。
『前田君のこと……ずっと好きだった』
百貨店でのパンのイベントの時、僕は……君に突然告白された。
榊社長のためにと、脇目も振らず必死で頑張ってた頃だったから、いろいろ不安だった。
でも、社長に相談したら、
「好きな人の側にいなさい」って……
そうやってアドバイスしてくれ、僕の心がずいぶん軽くなったのを覚えてる。
その言葉、今でも忘れていない。
大切な家族と過ごす時間。
それをくれたのは榊社長だと思ってる。
京都の実家のお茶の販売もずっと順調で、あんこさんのアイデアで名前が決まった「前田さんちのロイヤルミルクティー」も、店の定番商品として売れ続けている。
相変わらず、社長と雫さんご夫婦もずっと買ってくれてて、両親はいつまでもあの人に感謝し続けている。
もちろん、僕も。
男が男に惚れるっていうのは、こういうことを言うのだろう。
今、榊グループは、正孝さんが入社してますます活気づいてきてる。
社長に似てとんでもなくイケメンで、誠実で明るくて、優しい正孝さん。
彼はこの先間違いなく、榊グループを引っ張っていく。
望まれるなら秘書として、榊社長の後も……正孝さんのことを支えていきたいと思ってる。
僕は、いつまでもこの会社のために生きていく。
榊社長への恩を忘れることはできないし、そうすることが自分の喜びとさえ思ってる。
「沙羅にあんまり遅くならないように伝えて。日曜日、君の誕生日……3人であの旅館に行けるの楽しみにしてる」
「沙羅も楽しみにしてたわ。もちろん私もね。久しぶりだね、あの露天風呂入りたい~早く行きたいね」
こんな幸せな人生をくれたあの人と、家族に……
僕は、一生感謝を忘れない。
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