私の地元は、他殺や自殺の頻度が高い。昔から現在に至るまで、特に若い世代が悪戯に人を殺す事件が多い。なんならビルごと燃えるような大規模な事故も多い。何故かは知らないが、昔から曰くが多い地域なのかもしれない。
私はこの体質のせいで、自殺者や殺人事件が起きた現場には長居できない。理由は色々あるが、簡単に言うと引っ張られるからだ。こっちが視えるのを向こうも察知するのだろう。
地元で『街』と呼ばれる区域がある。その街の方に行けば行くほど、長居できない場所が多い。買い物にも支障が出るが、そもそも働くなんてもっての外だ。
とあるデパートの上階にはコールセンターがある。そこで、私と同学年で、親友のクラスメイトがパートのおばさんを虐め抜いておばさんが飛び降りた事件があった。高校を卒業した頃で、かれこれ10年が経つ。
でも未だに、買い物中にエスカレーターの付近に寄ると、上から定期的におばさんが落ちてくる。ドシャ!と肉と骨がひしゃげる音が響く。毎時決まった時間ではなくて、大体人が1階から上階までエスカレーターで上がったくらいの時間を空けて、それから落ちてくる。
そのデパートの前の通りには、過去に火災で何人も亡くなった元デパートがある。高校を卒業後、そのデパートに入っているアパレル店へ入社した。
でも3ヶ月持たなかった。急に火災警報器が誤作動で鳴り出すのは日常茶飯事。さらに従業員の休憩スペースに行く従業員通路を歩けば、真っ黒焦げの人影がゾロゾロと走ってくるのが視える。ぶつかる瞬間に煙を巻くように消えるのだが、出社の度に視るのがしんどくなった。ある出社の日、朝起きてベッド横に丸焦げの人が「熱いよォ」と私の肩を掴んできて、目眩と共に部屋で倒れた。
元夫と暮らしている時だったので、元夫はパニックになり救急車を呼んだらしい。気付けば病院で目覚め、救急隊員に「凄く嫌なことがあったのかい?」と質問された。なんでそんなことを言うのかと思えば、救急隊員が駆け付けた時には仰向けで硬直したまま目を見開き、焦点すら合わない目で空虚を睨んで「苦しい苦しい苦しい」と呟いて過呼吸のような息を繰り返していたそうだ。救急隊員は過度のストレスからくる発作だと受け止めたそうで、しばらくヒアリングをされた。
あー、見事に入られたな。と個人的には思った。防御が間に合わなかったのを悔やんでいると、駆け付けてきていた霊感のある義母がこっそり「もう祓ったからね」と言った。義母は霊媒師のようなことをボランティアでやっていた。
私はもうあの環境で仕事を続けるのは厳しいと判断し、ストレスからの体調不良ということにして辞めてしまった。
妊娠中に勤めていたカラオケ店も、以前火災があってそのビルに居た人達がほぼ焼け死んだという噂があり、そこでは従業員ではない真っ黒い人が部屋の中を覗いてくる目撃情報が相次いだ。
私もそれは目撃していて、閑散期に体調が悪くなり、客が来るまで一室を借りて少し横になっていた時、気配を感じてドアの上の小窓に視線をやると、目だけが浮いているように見えるほど、目以外のパーツが真っ黒に焼け焦げた人が立っていたことがある。
それ以外にも奥は行き止まりの通路に向かって黒い人影が入っていき、見に行くと誰も居ないなんてことは日常茶飯事で、部屋でカラオケを流すと客が入れていない曲まで流れるといったクレームも多々あった。古い曲が流れるらしい。
そのカラオケ店は立ち入った瞬間からゾワゾワする変な空気があって、そういったものが出るのは一目瞭然だった。
当時は系列店の居酒屋も道路を挟んで向かい側にあり、そこにヘルプで行ったこともあるが、カラオケ付きの大部屋をバッシングしようとして、御守りの数珠が弾けることが3回ほどあった。弾けた直後、背後に物凄い威圧感のあるヤバそうな気配があるのだが、「振り向くなよ」という私の守護の一言で金縛りのようになってしまうため、私は背後に何が居たのか見ずに終わった。
最後は出産のため退職したが、その後半年経たないうちにカラオケ店も居酒屋も変なものが出るという噂が広まり客足が減って、潰れてしまった。街にあるテナントが相次いで立ち退くのは、きっとそういう影響もあると思う。
また、別のアパレル店で働いた時は、路面店だったのだが、そこでも陰気な空気が漂っていて、バックヤードには天井に触れるほど背の高い女や恐ろしい形相の女の子、作業部屋の棚の上に神出鬼没の生首など固定の強そうな地縛霊が居た。あれを視たのは私だけでなく、客の幼い子供が怖がって店内に入りたがらないこともあった。そこも同じく、やがて潰れてしまった。
高校生で初めてバイトをしたコンビニでは、小さな子供が神出鬼没で店内を走り回るのが防犯カメラにも映り、店の外からずっと硝子越しに店内を覗き込んでいる血塗れの女が四六時中立っていて、商品が勝手に落ちることや謎の停電が何度もあった。
直近で勤めたオフィスでは、入社当時から挨拶しても無視してくる、椅子に座ったまま何もしない女がいた。あまりにもはっきり視えていたせいで、最初の1ヶ月間はスタッフだと勘違いしていた。ただ、あまりにも仕事をしない人なので不思議に思って上長に「あのいつも花柄のスカートを履いている方はなんて名前なんですか?日中ずっとPC触らず椅子に座ってぼーっとしていますけど、大丈夫なんですか?」と聞けば、「そんな人は今は居ないよ」と言われた。
副店長に特徴を教えたところ、恐る恐る過去の従業員との飲み会の写真を見せてくれた。その中に、私が常に挨拶をしていた女が居た。
「雪さんが入社する3ヶ月くらい前にクビになった人でね、店長に猛アタックしていて振られてもめげなくて、ちょっと面倒くさかった人だよ」と言われた。そこで私は初めて合点がいった。あの女、立ち上がるとしたら店長の真後ろに立っていることが多かった。途中から精神的に問題のある人かと思っていたが、正体は生霊だったようだ。
相当強い想いで店長に恋していたらしく、店長に近寄る女性スタッフの背後に立っては「死ね死ね死ね死ね」と低く呟くのを何度か聞いた。ただ途中から想いが強過ぎたのか、女性スタッフなら誰でもいいと言わんばかりにランダムに立っては呪言を唱えてくるので、いい加減腹が立って、何を勘違いしたのか私に憑いて来た時に運悪く片腕を切り落とされる自体となり、それ以降は彼女の生霊を視ることはなかった。相当なダメージがいったのだろうと予想している。
ところで、私の霊感を知って、よく学校や職場で「お化け視えるって本当?わたしにも憑いている?ここにも居るの?」などと聞かれることがある。
私はその時絶対に居るものは言わず「ここには何も居ないよ!こんな綺麗な所初めて勤めたかもー!」と返す。だって素直に言ったところで裏でコソコソと陰口のネタになるのも目に見えているし、何より存在を当てると私の方に憑いて来るからだ。憑いて来た場合、対処するのはS兄やプーさんになるので彼等に睨まれる。素直に伝えるのも経験した上で、今は「何もいないよ~!」とわざと返している。
それにスタッフや客の出入りが多い場所に「何も居ない」なんてほぼある訳がない。お化けにも死霊や生霊、思念体など種類がある。沢山の人が出入りした場所にはそれらが入り交じるため、視える視えないに関係なく結構な数が存在するのは仕方ない。それらが全部視える人もいれば、一部しか視えない人もいる。
純粋にそこに居るモノをちゃんと明確に教えてあげる霊感の持ち主は、とても心優しいと私は思う。私は後々面倒なので絶対に正確な情報は直に言わないから、素直に「危ないからお祓いした方がいい」などと他人に伝える人を尊敬する。
それはさておき、私の最新の職場もまたビル内に入っていて、立地的には上記に書いた結構ヤバい場所なのだが、不思議とそのビルだけ護りが強いようで、面接時など変なモノに遭遇することはなかった。本当に本当に珍しく空気が澄んでいた。職業柄、スタッフの質もまた違うせいかもしれない。働いているうちに変なモノとの遭遇もあるだろうが、今までにない明るさと活気があって来月以降の職場を楽しみにしている。また何か不思議な体験をした時には、ここに投稿するつもりだ。
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