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2.凪 誠士郎は面白がっている
「クソが…ッ」
俺は今、サッカーを心から愛せない。
昔は兄とするサッカーに特別感を感じ、兄弟愛を感じてきた。
兄を追いかけることがサッカーの楽しみ。
今では兄を倒すことがサッカーの目的。
本当に俺がしたかったサッカーはなんだ。
俺は、このままじゃ潔に取り込まれる。
どうして、潔が頭から離れねぇか分からない。
「チッ…」
あと少しのところで潔への電話をやめる。
蜂楽の言葉が癪に触る。なによりこれじゃああのおかっぱの思い通りじゃねぇか。
考えることに嫌気がさし、俺はジャージを上に羽織るとランシューに履き替え家を出る。
鍵を閉めると隣から騒がしい声が聞こえた。
「待って潔…そこに宝箱あるから!!」
「お前が取れよッ!近いだろ笑」
「しぬって潔!!助けて助けて!!笑」
胸の奥底がぎゅっとなり、思わず階段に足を運ぶ。
最近様子が特におかしい。
俺に取って潔世一がどういう存在なのかまだ分からない。
「…ッは、ッはぁ…」
外はまだ肌寒く春ほどの暖かさも明るさもない。
乱れた息を整える度に落ち着きを取り戻す。
そのせいで自然としんどくなった。
「あ、一位の人。」
「…あ”?」
首にかけていたタオルを手に持って汗を拭うとそいつは俺の前へと駆けてくる。
「誰だお前。」
「記憶力ないんだね、天才なのに。それとも他のライバルには興味ない?」
「…💢」
つい腹が立ちそいつの胸ぐらを掴む。
「凪だろ、潔と一緒のチームだった。覚えててもお前と会話を続けるメリットがねぇ」
「やっぱ天才ってよく分かんないや。冴…だっけ。お兄ちゃんも天才なんでしょ。」
「…帰る。」
俺の1番憎む相手、糸師冴の名前を聞くと自然と体が固まってしまう。
背中を向けて歩こうと踏み出した時、後ろから凪に腕を掴まれる。
「なんだよ。離せ。」
「潔の部屋、知らない?借りてた上着返したいんだけど部屋知らないし。」
「…知ってる。」
潔の名前に思わず自分の意思で足を止めてしまう。
「じゃあ、教えてよ。」
「…無理。教えたくねぇ。」
「え〜…じゃあ着いていくよ。どうせ隣とか、でしょ、潔と。」
図星すぎて何も言えずにいると凪はまだ言葉を続けた。
「あ、いた。」
急に凪が俺の後ろを見ながらそう声を上げた。
もしかしてと思い勢いのまま振り返るも誰も居ない。
「好きなんじゃん。やっぱ。」
「…くだらねぇ真似してんじゃねぇよ。」
「好きだから俺を近づかせたくないんでしょ。嫉妬?そこまで束縛しないと叶わない恋なんて俺なら面倒くさいしやめるな〜…ね。」
凪の煽りに冷静を装うも内心焦りを感じてしまう俺がいる。
「退けろ…帰る。」
「早く動かないと潔狙いは少なくないしね」
「余計なお世話だクソ。」
やっぱり歩く足はとてつもなく重かった。
潔の明るい笑顔を求める自分に嫌気がさす。
おかっぱとかあいつの言うこともあってる。
俺は、潔世一に特別な感情を持ってる。
「面白くなったかも。玲王。」
「お前ほんとに悪魔だな。人の恋愛はゲームとは違うんだぞ…笑」
「分かってるよ。凛がダメなやつって分かったら俺が守る。」
玲王の呆れた顔にも慣れてきた。
「プール行きたいな。海で泳ぐのもあり。」
「ばーか、風邪引くぞ」
この無邪気さはサッカーに必要らしい。
もし凛が素直になったら……ダメだ、想像するには頭が追いつかないみたい。
頑張れ〜、凛。
心のどこかで凛の背中を押すとどこからか「うるせぇ」と背中を蹴られる俺が浮かび上がってきた。
寒さに震えていると玲王が肩を寄せる。
「走るぞ凪!」
「嫌だよ疲れたし。もう今日の分は走った。」
「お前が急に走ろうって言い始めたの、初めっから凛が目的だったんだな。」
「うん、凛と潔、どれくらいかかるかな。」