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ザッ。
柱達が一斉に跪く。同時に炭治郎は不死川に頭を掴まれ、素早く地面に打ち付けられる。
(早い…! 反応できなかった)
「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。恐れながら柱合会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただきたく存じますが、宜しいでしょうか」
柱としてしゃんと喋りだした不死川に炭治郎は目を丸くする。
(知性も理性も全くなさそうだったのにすごいきちんと喋りだしたぞ)
「そうだね、驚かせてしまってすまなかった。炭治郎と禰󠄀豆子のことは、私が容認していた。そして、みんなにも認めてほしいと思っている」
「ああ…たとえお館様の願いであっても、私は承知しかねる」
「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊員など認められない!」
悲鳴嶼と宇髄の意見は変わらず反対。
「私は全てお館様の望むまま従います!」
「私も…お館様の命とあらば」
耀哉が来るのを待機していた甘露寺と久遠院は比較的賛成寄り。
「僕はどちらでも。すぐに忘れるので」
時透はそもそも興味がない。
「信用しない信用しない、そもそも鬼は大嫌いだ」
「心より尊敬するお館様であるが、理解できないお考えだ!全力で反対する!!」
「鬼を滅殺してこその鬼殺隊…竈門・冨岡両名の処罰を願います!」
伊黒、煉獄、不死川も先程同様反対意見。不死川は冨岡もまとめての処分を希望した。
「…手紙を」
「はい」
そう言って懐から文を出したのは、産屋敷くいな。双子の産屋敷かなたとは着物や髪型が全く同じであり、顔立ちが髪飾りの位置のみでしか判別ができない程似ている。
「こちらの手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです 一部抜粋して読み上げます」
この少女、8歳には見えぬ貫禄がある。
「――炭治郎が鬼の妹と共にあることをどうか御許しください 禰󠄀豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っております 飢餓状態であっても人を喰わず そのまま2年以上の歳月が経過いたしました 俄には信じ難い状況ですが事実です もしも禰󠄀豆子が人に襲いかかった場合は 竈門炭治郎及び
――鱗滝左近次 冨岡義勇が腹を切ってお詫び致します」
冨岡はずっと無表情を貫いているが、恐らく胸の内に「禰󠄀豆子を助けたい」という想いを秘めているのだろう。鬼殺隊の一員でありながら鬼を助ける……これがどれだけ重大な事か分かっていても。
禰󠄀豆子は人を襲い、鬼側へ離反する可能性がある。そうなると鬼殺隊への被害は甚大だ。しかし冨岡は炭治郎と禰󠄀豆子のことを信じて、命を懸けている。
炭治郎の目に張っていた水の膜が、零れ落ちた。
しかし、不死川の憤りは未だ治らない。
「……切腹するから何だと言うのか……死にたいなら勝手に死に腐れよ……何の保証にもなりはしません!」
「不死川の言う通りです! 人を喰い殺せば取り返しがつかない。殺された人は戻らない」
煉獄のその言葉は、声色こそ快活だったものの重かった。
「…確かにそうだね。人を襲わないという保証ができない、証明ができない――ただ。
人を襲うということもまた、証明ができない」
耀哉のふわふわしたような、それでいて堅固な声で紡がれる言葉は、この問題の核心をつく。
「禰󠄀豆子が2年以上もの間人を喰わずにいるという事実があり、禰󠄀豆子のために3人の命が懸けられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない…皆にその意志はあるかな?」
「……」
全員が黙り込む。不死川もまた、反論できずに渋い顔をする。
「それに炭治郎は……鬼舞辻と遭遇している」
柱達は耀哉の一言で顔を上げた。
「そんなまさか……」
「柱ですら誰も接触したことが無いというのに!!」
「こいつが!?」
意表を突く事実に、一斉に柱達が炭治郎に質問を浴びせる。
「どんな姿だった!? 能力は!? 場所はどこだ!!」
「うわっ!」
宇髄が立ち上がり先程とは打って変わって真剣な声色で問いただした。その巨躯に押され甘露寺がバランスを崩す。
「戦ったの?」
ずっと流されるまま、上の空だった時透さえ炭治郎に向かっている。
「鬼舞辻は何をしていた!? 根城は突き止めたのか!?!」
先程まで敵意剥き出しだった不死川も必死に返事を求める。
「黙れ俺が先に聞いてるんだ!! まず鬼舞辻の能力を――」
また言い合いになりそうな攻撃的な雰囲気に一気に変わり、その様に炭治郎はひどく困惑していた。しかし……
すっ、と口の前で人差し指を立てる。その耀哉の手振で柱達は口を閉じ、元の引き締まった雰囲気に戻った。
宇髄と甘露寺も元の体勢に戻る。その様に、炭治郎は目を見張る。
(すごい……圧を一切感じないのに一瞬で場を鎮めた……)
「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追っ手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで、離したくない。恐らくは禰豆子にも、鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているのだと思うんだ。分かってくれるかな」
(この人からは、家族と一緒にいるみたいなとても優しい匂いがする……それと同時に、どこか芯が通ったような、固い信念を持ったような匂いもする)
元々反対意見だった宇髄と煉獄は、心底かなり複雑そうな表情をしている。しかし、不死川はまだ禰豆子を認めず、苛立ったように奥歯を血が滴る程噛み締めて目を血走らせている。
「わかりませんお館様 人間ならば生かしておいてもきが鬼は駄目です……承知できない!」
そういうと突如刀を抜き、ザシュ! と自らの腕に刃を立てた。その様に炭治郎は狼狽える。甘露寺も困惑したように眉を八の字に下げた。
(え? え? 何してるの何してるの?? お庭が汚れるじゃない)
「お館様……! 証明しますよ俺が! 鬼という物の醜さを!!」
そう言い、禰󠄀豆子が入った箱の上に腕を翳し血を垂らす。
「実弥……」
「不死川、日向ではダメだ。日陰に行かねば鬼は出て来ない」
伊黒は早くその首を刎ねろと言わんばかりに不死川を催促する。
「――お館様 失礼仕る」
不死川は素早く跳び、軒下の畳の間に音もなく着地した。
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