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「禰󠄀豆子ォ!! やめろーーーーーーーーーっ!!!!」
禰󠄀豆子が入った箱に刃を向ける不死川の背中に向かって炭治郎が絶叫する。手を縛られている状態で立ち上がり、禰󠄀豆子の元に向かおうとしたその瞬間。
炭治郎は背中に伊黒の肘鉄を食らい動くことができなくなった。
「かっ……!」
背中から肺を強く圧迫され、動くのはなおのこと、息をすることすらままならない。
一方、不死川は箱ごと刀で禰󠄀豆子を2度貫いた。箱を乱暴に開けると、その拍子に箱の扉のようになっている蓋が吹っ飛び、ズズ、と不死川の血の匂いに反応して幼子の姿から元の身長まで戻った禰󠄀豆子が姿を現す。
着物や額は不死川に刺されて血濡れており、息を荒くして口枷を強く噛み、必死に食人衝動を必死に抑えている。
「伊黒さん強く抑えすぎです。少し緩めてください」
未だ肘を強く突き立てられ、背中がミシミシと軋んだ音を立てる。
「……竈門君……肺を圧迫された状態で呼吸を使うと血管が破裂しますよ」
必死に全集中の呼吸を使って拘束から脱しようとしている炭治郎に、胡蝶が咎めるように言う。
「可哀想に……なんと弱く哀れな子供……南無阿弥陀仏……」
未だ耐えている禰󠄀豆子はミシミシと音を立てる程強く口枷を噛み締めており、その額には脂汗が浮かんでいる。
呻き声を上げ、遂に自身を拘束していた縄を引きちぎる炭治郎。その時、 今まで沈黙を貫きほぼ微動だにしなかった冨岡が炭治郎の体を押さえつけていた伊黒の腕を掴む。伊黒が呆気にとられた隙に炭治郎は縁側まで駆け寄った。
「禰󠄀豆子!!」
禰󠄀豆子はハッとしたように目を見開き、不死川の腕に伸ばしていた手を抑える。
(人は 守り 助けるもの 傷つけない)
「思い出せ!!!!」
炭治郎の師、鱗滝左近時が炭治郎の最終選別に行っている間にかけた暗示。
(――絶対に傷つけない!)
禰󠄀豆子は、精一杯不死川の腕から顔を背けた。
「どうしたのかな?」
「鬼の女の子はそっぽ向きました。不死川様に3度刺されていましたが、目の前に血塗れの腕を突き出されても我慢して噛まなかったです」
「……ではこれで、禰󠄀豆子が人を襲わないことの証明ができたね。」
不死川は唖然とする。本当は禰󠄀豆子が人を襲うことを証明したかったのに、逆に人を襲わない善良な鬼だったことを決定づけることになってしまったからだろう。
「炭治郎。それでもまだ禰󠄀豆子のことを快く思わない者もいるだろう」
耀哉に声をかけられた炭治郎が我に返り、平伏する。
「証明しなければならない。これから、炭治郎と禰󠄀豆子が鬼殺隊として戦えること、役に立てること……十二鬼月を倒しておいで。そうしたら皆に認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる」
「俺は……」
決意を強く固めたように炭治郎が声を張り上げる。
「俺と禰󠄀豆子は鬼舞辻無惨を倒します!! 俺と禰󠄀豆子が必ず! 悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!!!!」
「……今の炭治郎にはできないから、まず十二鬼月を1人倒そうね。」
にこにこと微笑み優しく返す耀哉。言ってから羞恥心が込み上げてきた炭治郎の顔が茹で蛸のように真っ赤になった。
「はい」
情けない声色で返す炭治郎。
それを見て、様子を見ていた甘露寺が吹き出しそうになる。
(だめよ笑ったら! だめだめだめ!!)
宇髄と悲鳴嶼も必死に口角を下げようとして珍妙な表情をした。胡蝶も俯いて肩を振るわせ耐える。
一方、煉獄は
(うむ! いい心掛けだ!!)
とさっきと打って変わって深く感心している。
久遠院は、
(……どこか兄上の幼い頃に似ている……きっと彼は純粋な心の持ち主だ。鬼殺の道に入ったのが悔やまれる程の……)
と、どこか物悲しげに炭治郎の姿を見つめていた。
「鬼殺隊の柱達は当然抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛錬で自らを鍛え上げて死線をくぐり、十二鬼月をも倒している。だからこそ柱は尊敬され、優遇されるんだよ。炭治郎も口の利き方には気をつけるように」
「は……はい!」
「それから実弥、小芭内。あまり下の子に意地悪をしないこと」
「……御意」
片膝をつく不死川の横、試したような真似をさせられた禰󠄀豆子は既に小さくなっており、プンプンと怒っていた。
「炭治郎の話はこれで終わり、下がっていいよ。そろそろ柱合会議を始めようか」
そして、耀哉は話を切り上げて下がるよう促す。
すると胡蝶が軽く手を挙げ、
「任務明けで怪我を負っているようですので、竈門君は私の屋敷でお預かり致しましょう!」
「……えっ???」
他人の家、しかも上官に引き取られることが決定した炭治郎は突如困惑の渦に落とされる。
「はい連れて行ってください!」
「前失礼しまァす!!」
「それでは……」
「ちょっと待ってください!!」
あっという間に連れていかれそうになる炭治郎は慌てて叫ぶ。
「その傷だらけ人に頭突きさせてもらいたいです絶対に!禰󠄀豆子を刺した分だけ絶対に!!」
「黙れ! 黙っとけ!!」
屋敷の柱にしがみつき離さんとしている炭治郎を引き剥がそうと、隠2人が羽織ごと隊服を引っ張る。
「黙れ! 指剥がせ早く!!」
「頭突きなら隊律違反にならないはぶぇ!?」
突如炭治郎の顔に3つ、高速で石が飛んできた。
「……お館様のお話を遮ったら 駄目だよ」
石を飛ばしたのは、今まで静観していた無一郎だった。
「もっ申し訳ございませんお館様時透様」
「早く下がって」
ぴしゃりと跳ねつけるように言う時透に気圧され、わたわたしつつも炭治郎を抱えて退散する隠達。
「炭治郎」
そこにこそっと耀哉が声をかける。
「珠世さんによろしく」
隠に連れられて遠ざかる炭治郎が目を見開き叫ぶ。
「ちょっと待って!! 今……今……! ちょっと待ってください゛っ!?」
一発隠に殴られたようだ。ゴッと鈍い音と共に遠ざかる隠達を見送り、耀哉が腰を落として居住まいを正す。
「よいしょ……さて、柱合会議を始めようか。」
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