あっという間に夜になった。
コピーがだいたいまとまりかけ、今回は梨花ちゃんのアイデアがほぼ採用されそうだった。
悔しいけどこの世界は実力勝負だから仕方ない。
みんなもそれぞれに仕事を終えて、帰る支度を始めてる。
一弥先輩と菜々子先輩は…
そっか、今日も二人で一緒に帰るんだ。
結構、くっついて…
さすがに梨花ちゃんも、二人の関係に気づいてるかも知れないな。
私も早く帰りたいけど…
本宮さんと一緒に帰ることは、誰にも知られたくない。
だから、最後まで資料整理で残ってた。
『恭香』
少しして、どこかに行ってた本宮さんが戻って来た。
みんなが帰ってから、声をかけてくれたんだ。
そこは、私を気遣ってくれてるんだろう…
『帰ろう』
もしかして、そ、そのスーツ姿で私の横を歩くつもり?
さすがに見た目の差がありすぎて、かなり抵抗あるんですけど。
『は、はい…』
私達は、電気を消してミーティングルームを出た。
駅までは、お互い別々に歩くようにした。
本宮さんの後ろを歩く私…
本当にスレンダーで背が高い…
颯爽と歩く本宮さんを、道行く女性達がチラチラ見ている。
二度見する人もいるくらい。
やっぱり目立つよね…
そりゃあ、そうだよ。
こんなモデルみたいなイケメンが歩いてたら、きっと私も見ちゃうだろうし…
もうすぐ駅に着く。
今までは、通勤はきっと車だったんだろうな。
まさか…
これから、毎日電車で通うつもりなの?
『あの。電車とか乗るんですか?』
『電車は嫌いじゃない』
本宮さんは、普通に切符を買って改札を通った。
私は、後を追うように定期を通した。
電車がやってくる。
ちょうど帰りの通勤ラッシュで、ホームにはたくさんの人が待っていた。
だけど、どれだけたくさんの人がいても、背が高い本宮さんを見失うことはない。
本宮さんがかもし出すオーラは、どこにいても消えることはないから。
電車がホームに入ってきた。
扉が開いた瞬間、みんなが一斉に車両になだれ込む。
うわ、気のせいかいつもより人多くない?
私達はめちゃくちゃに押されて、あっという間にはぐれてしまった。
その時、誰かが後ろから私の腕を少し勢いをつけて引っ張った。
そのせいで、その人の胸の辺りに顔を埋めた私は…
恐る恐るゆっくりと頭を上げた。
そこには…
あまりに綺麗過ぎる本宮さんの顔があった。
嘘…
私は恥ずかしくて、すぐにうつむいた。
この状況…
有り得ない。
周りに押されているせいで全然動けないし、私を支えた本宮さんの右手はぴたりと私の背中にくっついてるし…
何なの、これ~
本宮さんの左手には、少し大きめのカバンが握られてる。
そう、私のところに泊まるための荷物だろう…