とにかく、もうそれからはずっと顔を上げられなかった。
だんだん顔も体も熱くなってきた…
次の駅まで3分くらい。
そしたら、少しだけ降りる人がいるはず。
早く離れないと私の心臓の音が本宮さんに伝わってしまうよ…
ううん、もしかしたら…もう伝わってるかも。
何で…?
どうしてこんなにドキドキするの?
私は、一弥先輩が好きなんだよ…
本宮さんにドキドキするなんておかしいよ。
だけど…
今、こんな風にくっついてるのが一弥先輩だとしたら…
きっと、とっくに心臓が破裂してるはずだ。
本宮さんだから…
だから、まだ耐えれてるんだ。
うん、きっとそう。
それでも、なぜか…
本宮さんの優しい香りと、背中にある手の温もりが何とも言えず私をキュンとさせる。
本宮さんは黙ったまま。
満員電車だから仕方ないけど…
あっ、駅についた。
ドアが開いて…
ほんの少しだけ乗客が降りた。
嘘…
思ってた程スペースは空かなかった。
ほとんど体制は変わらない。
まだ本宮さんの右手が離れないまま、ガタンゴトンと音を立てて、また電車がゆっくりと動き出した。
ほんの少しだけ顔をあげて見ると、周りの人達は仕事終わりでみんな疲れているようで、下を向いて目を閉じていたり、暗くなった窓の外をボーッと見たりしていた。
私達を見ている人は…
たぶん、いないと思う。
その時、本宮さんの手が背中から離れて、私の頭のところにきた。
え…
開いた大きな手で、私の髪をなでるように優しく触った。
その思わぬ行動に一瞬ドキッとして…
息が上手く吸えなくなった。
これ…
きっと他の人に突然されたら、ちょっと気持ち悪いことかも知れない。
でも、本宮さんは…それをすごく自然にする。
女性の扱いに慣れてるのかなって、少し思ったけど…
だけど…
こんな風にされても、正直嫌じゃなくて…
私のドキドキがますます加速していったんだ…
もう…
ダメだ。
胸の高鳴り、完全にバレてるよね。
でも…どうしてだろう?
本宮さんは、なぜこんなに私に優しくするんだろう?
そう言えば、さっき社長に、私と結婚するとかって言ってたよね…
結婚って…本気で言ってるの?
私達は、昨日、会ったばっかりなんだよ。
やっぱり、おかしいよね。
そうだよ…
本宮さんは、きっと社長から逃げるために私をたまたま同居人に選んだだけなんだよ。
一人暮らしで彼氏のいない私を…
結婚するなんて口からでまかせに決まってる。
いろいろ考えてたら、とうとう降りる駅に着いた。
やっとだ…
いつもより長く感じたよ…
結構な人数が降りる。
私はすぐに本宮さんから離れて、電車を降りた。
改札を出て私達は、マンションに向かって歩き出した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!