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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第26話:魔法の畑、初収穫! 野菜が光っている件
北海道の朝は、いつだって澄み切っている。
特に我が家の縁側から見える景色は、ブラック企業で濁りきった俺の目を毎日綺麗に洗浄してくれる、天然の目薬のようなものだ。
「……よし、今日もいい天気だ」
俺は大きく伸びをして、庭の端にある『畑』へと視線を向けた。
そこは以前、シロが前足で「ぽんっ」と叩いただけで、ガチガチの荒れ地から極上のふかふか黒土へと変貌を遂げた、奇跡のグラウンド・ゼロである。
あの日、試しに蒔いた二十日大根(ラディッシュ)は種を蒔いて3秒で育つというイリュージョンを見せてくれたが、その後、俺と小春ちゃんで色々な野菜の苗や種を植えていた。
普通のトマト、キュウリ、ジャガイモ、玉ねぎ、そして大根。
いくらシロの魔法の土とはいえ、さすがに3秒で全てが育つわけではなく、それらは数週間の時間をかけて、ゆっくりと、しかし確実に成長していた。
そして今日。いよいよその『夏野菜たち』が、本格的な収穫の時期を迎えたのだ。
「お兄さーーん! おはようございまーす!」
いつものように、自転車をドリフト気味に停めて小春ちゃんがやってきた。
「おはよう、小春ちゃん。今日はついに収穫祭だな」
「はいっ! ジンバルの準備もバッチリです! 世界中の皆さんも、魔法の畑の初収穫をすっごく楽しみにしてますよ!」
小春ちゃんが笑顔でスマートフォンの配信開始ボタンをタップする。
『100,000』『500,000』『1,200,000』
配信が始まった瞬間、もはや見慣れたバグのような速度で同接(同時接続者数)が跳ね上がっていく。
『待機してたぞー!』
『今日はついにシロ様の畑の収穫か!』
『絶対ただの野菜じゃないだろww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”Good morning! I am ready to buy all the holy vegetables!“(おはよう! 神聖な野菜を全て買い取る準備はできているぞ!)』
「石油王さん、おはようございます。でも売りませんよ、今日の夕飯にするんですから」
俺はカメラに向かって軽く挨拶を済ませ、シロを抱き上げて畑へと向かった。
『ミャウ♪』
シロも自分の作った土から育った野菜が気になるのか、尻尾をピンと立ててご機嫌だ。
しかし。
畑に近づくにつれて、俺は奇妙な違和感を覚え始めた。
「……なぁ、小春ちゃん」
「はい? どうしました?」
「あのトマト……なんか、おかしくないか?」
俺が指差した先。立派に育ったトマトの苗には、大玉の真っ赤なトマトが鈴なりに実っていた。
だが、その赤色は、普通の野菜のそれではない。
「……え? なんか……光って、ません?」
小春ちゃんが、信じられないものを見るような声を出した。
そう。光っているのだ。
比喩表現ではなく、物理的に。
深い緑色の葉っぱの影にあるというのに、そのトマトはまるで内側にLEDライトでも仕込んでいるかのように、自らルビーのような赤い光を周囲に放っていた。
「……」
俺は無言で視線を横にズラした。
土から半分顔を出している大根。
それは真っ白な大根だったが、表面がまるで最高級の真珠のように、ぼんやりとした虹色のオーラ(後光)を纏っている。
さらに奥のキュウリに至っては、エメラルドの剣のように鋭い光を放ち、もはや武器にしか見えない。
「お、お兄さん……これ、野菜ですよね……? 宝石箱じゃなくて……」
小春ちゃんが震える声で尋ねてくる。
ジンバル越しのカメラがその異常な光景を捉えた瞬間、120万人が見つめるチャット欄が完全に爆発した。
『!?!?!?!?』
『光ってるwwwwwww』
『野菜が自発光してて草』
『ゲーミング野菜やんけ!!!』
『魔界の植物でもこんなんならんわ!!』
『シロ様のマイナスイオンを吸いすぎた結果がこれかwww』
『(スイスの銀行家からの¥50,000ギフト)=”Beautiful rubies! No, wait, are those tomatoes?!“(美しいルビーだ! いや待て、それはトマトなのか!?)』
チャット欄の怒涛のツッコミと悲鳴。
だが、俺は元限界社畜。どれだけ理不尽な事態に直面しようとも、決してパニックにはならない。
俺は大きく深呼吸をし、極めて冷静な、深夜のラジオDJのようなトーンで口を開いた。
「……皆さま、落ち着いてください」
『落ち着けるかああああああ!!!』
『また主の現実逃避が始まるぞwww』
「北海道の朝というのは、空気が非常に澄んでいます。そして、野菜の表面についた『朝露』が、昇ったばかりの太陽の光をプリズムのように反射して……ええ、このように、まるで自ら光を放っているかのように見える錯覚が起きるんです。田舎の大自然では、よくある光学現象です」
「あるかああああああああああああ!!!」
小春ちゃんが、俺の隣で全力のツッコミを入れた。
「お兄さん! 今、日陰ですよ!? 太陽の光なんて当たってないのに光ってますよ! どう見てもトマト自体が光を放ってるじゃないですか!」
『小春ちゃんナイスツッコミww』
『主の言い訳がどんどん苦しくなっていくww』
『光学現象(物理法則無視)』
『適応力バグおじさん、ついに光の屈折率すら捻じ曲げる』
俺の苦し紛れすぎる言い訳は、世界中の視聴者に見事に論破され、チャット欄はもはや大爆笑の渦に包まれていた。
『ミャン!』
そんな俺たちをよそに、シロが光る大根の前にトコトコと歩いていき、「早く抜け」とばかりに前足で葉っぱをポンポンと叩いた。
「わ、わかったよ。とりあえず収穫してみるか」
俺は大根の葉の根元をしっかり握り、ゆっくりと力を込めた。
ズボァッ!!!
なんの抵抗もなく、スポンと抜けた巨大な大根。
その瞬間、大根から放たれていた真珠のような光がフワァッと広がり、俺の手のひらを通じて、全身に極上のマイナスイオンが流れ込んできた。
「……うおっ」
なんだこれ。野菜を持っているのに、まるでシロのお腹を撫でている時のような、圧倒的な癒やしのパワーを感じる。
「すごい……! お兄さん、大根から後光が差してます! これ、絶対食べたら寿命が延びるやつですよ!」
小春ちゃんが大興奮でカメラを近づける。
もはや、これをただの野菜と言い張るには限界があった。
シロの『神聖な土』の力で育った結果、野菜たちは大地の栄養だけでなく、シロの癒やしオーラまでたっぷりと吸収し、とんでもないポーション(回復薬)へと進化してしまったらしい。
「よし……じゃあ、この光る野菜たちで、今日の夕飯を作るか」
『絶対に美味い(確信)』
『食べたら主の適応力がさらにバグりそう』
『俺も一口だけでいいから食べたい……』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト)=”I will send a Michelin 3-star chef right now to cook them!“(今すぐミシュラン三つ星シェフを派遣して調理させよう!)』
「石油王さん、三つ星シェフはいりません! これくらい俺が料理しますから!」
呆れながらも、俺の口角は自然と上がっていた。
東京のコンクリートジャングルで、疲れ果てて食べていたコンビニの冷たい弁当。
それに比べて、今俺の手の中にあるのは、自ら光を放ち、持つだけで活力が湧いてくる究極の自家製野菜だ。
「さあ、小春ちゃん、シロ。いっぱい収穫するぞ」
『ミャーウ!』
「はいっ! お手伝いします!」
こうして、世界中が見守る中での【魔法の畑・初収穫祭】は、俺たちの常識をさらに軽々と超える形で、賑やかに幕を開けたのだった。
コメント
1件
わあ、ついに収穫祭!シロの魔法の土で育った野菜たち、まさか自発光するとは思わなかったです(笑)。トマトがルビーみたいに光って、大根が真珠のように虹色のオーラを纏ってる描写、すごく鮮やかで目に浮かびました。主人公の「光学現象です」って現実逃避っぷりには思わず笑っちゃいましたし、小春ちゃんの全力ツッコミも絶妙でしたね。でも何より、コンビニ弁当から自分で育てた光る野菜で夕飯を作るという生活の変化に、ほっこり温かい気持ちになりました。シロも誇らしげで、いい雰囲気のエピソードでした!