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「流石に神話って感じねッ 良く出来てる御伽噺《おとぎばなし》ね」
ミューのこの発言により数人がガタンと立ち上がる。愛国心からの行動なのだろう、長年伝わる伝承を否定された事に対して言葉無くして異議を申し立てたのだ。ガレオはその身を挺《てい》して静かにフォローにまわる。
「確かにミュー様のおっしゃる通り。これは我が国に伝わる《《ただ》》の神話です。勿論、確証は御座いません。ですがこれはこの国の希望に為り得る大切な事なのです」
ミューはゆっくりと椅子をズラすと真後ろに大きく描かれた立派な月狼神《つきのおおかみ》の絵画を見詰め、そして殊《こと》の外《ほか》、素直に話を始めた。
「アタシはクローン。そうねッ カグヤ姫って奴のクローンらしい…… 」
「「何と⁉ 」」
会場が大きくザワつく―――
「静粛に。ミュー様のお話をどうか落ち着いてお聞きください」
「カグヤ姫って奴は見た事も無いし、何処に居るのかも知らないけどッ、何故かアタシの中にはもう一人存在している。それがバルザって言う奴よ。普段はアタシと同じ見た目で、不確定な割合でお互いが入れ替わる。そして覚醒した奴の姿がコレよッ」
一気に会場が悲鳴にも似た歓喜に包まれた。
「静粛に‼ 静粛にお願いします‼ 皆様どうか着席を」
「何時、誰がアタシを何の為に造ったのかは知らない。アタシはカグヤの記憶も無ければ、バルザにも月狼神《つきのおおかみ》の記憶は無いはずよッ。そしてアンタ達の神話から推測すると、元々別々だった二人が、何故今は一つの身体になったのかも謎よッ」
「ミュー様はどのような所で目覚められたのですか? 」
「不思議な液体の生態カプセルって言うの? その中で目覚めていきなり吐き出されたのよッ? 全く失礼しちゃうわよね。でもねッ その後は真っ白な大きな部屋に閉じ込められて月《ルナ》と地球《グローブ》についてAI《コア》って奴に適当に教育を施されたわ、それこそ長い間だったと思う」
「だったとは? 」
「目覚めてから一体どの位の時が過ぎたのか知る術が無かったのよッ、部屋の中では戦闘と覚醒の練習、それと地球《グローブ》の歴史や文化と銀河系に関する知識を植え付けられたわ。今思うとカグヤのクローンで有ると言う事以外には、女神に関する事と月狼神《つきのおおかみ》に関する事は教えて貰ってないわねッ。カグヤ姫ってのが月の女神だなんて今聞いた話だし」
「非常に興味深いですね」
「これっ! 失礼ではないかガレオ、貴様は少し言葉を慎め、これだから余所者は」
ミューは掌を軽く上げ幹部の憤慨を窘《たしな》めると、そんな事どうでもいいと思わせる態度と共に、甘い物はまだなのかと催促する。
「言って置くけどッ アタシはアタシで居られる時間が短いからさぁ、さっさと約束通り甘い物を持って来なさいよッ」
「これは大変失礼致しましたミュー様。いえ、月の女神様。直ぐにご用意致します。おいっ! この船に有るありったけの甘い物を急いで」
「畏《かしこ》まりました」
「女神ってアンタッ 本気で言ってるの? 」
「ええ、お話頂き確信に変わりました。例えご自身が無自覚であろうとも、現在所在が不明な女神様のクローンであれば生まれ変わりと同義と言っても過言では無いでしょう。間違いなく貴女様は女神様の分身であると」
ガレオは急いで部下達に甘い物を大量に持ち込ませると、ミューの耳元で囁いた……
「就《つ》きましては、若しも女神様が我が国を本拠地として滞在して頂けるのであれば、素晴らしく美味しい甘い物を毎日お供えさせて頂きますが如何でしょうか? 勿論、ご事情あればお聞かせ頂き、条件に付きましては我々も譲歩させて頂きます。如何ですか? 」
ガレオは敢えて本拠地と謳い滞在と云う銘を打った。神格として国へと招き入れるには余りにも自由を気取るミューには敷居が高すぎる。到底承諾など出来ぬ相談であろうと軽く先手を打ったのであった。
「貴女様は我らが月狼神《つきのおおかみ》の生みの女神です。神授王権の我が国ではどんな我儘でも叶い放題ですよ? お住まいは我が国が誇る黄金に輝く神殿をお使い頂き、最新の宇宙船もご用意させて頂きます。お仕事は6日に一度、民にご神託を授けて頂ければそれで結構です。可能で有ればバルザ様には月に一度程度、神格化したお姿を民に見せて頂ければと」
「異議有り――― 」
突然フードを深く被っていた護衛の者達が一斉に顔を露わにすると、新たな見た目を有する者達が姿を現し、銃を幹部達へと突きつけた―――
―――会場が狂気に沸く。
「静かにしろアルス教徒め」
「これはこれは、全《まった》く以《もっ》て警備が手薄の様でしたね? それともそちらが優秀だったのでしょうかね? 貴方達、分かっているのですか? 神の御前ですよ? 」
まるで予想していたかの如く、ガレオはヤレヤレと大袈裟に両手を広げると、ミューを庇う様にゆっくりと後ろへと隠す。
「黙れと言った」
「まぁまぁ少し落ち着いて――― 」
ガレオの呼び掛けに銃声が天井へと鳴り響く―――
「黙れ‼ 異教徒が偉そうに、次は無いぞ? 大人しく女神様をこちらに渡せ」
ミューは可愛らしい三角形のケーキを、わざわざボールの様にぐちゃぐちゃに丸めると、ポイと口へと何個も投げ込み満面の笑みを浮かべる。ベタベタの両手をフフンと前に立つガレオの服で綺麗に拭き取ると、指を丁寧に舐め始め漸く事の重大さに気が付いた。
「はっ⁉ 女神って、アタシっすかッ⁉ え⁉ なになにコレってアタシで揉めてる系な訳? キャハハ何ソレッ 面白くなってきたじゃんよッ」
ミューの 幼い頰《ほ》っぺには、たっぷりのクリームがこびり付き、ガレオの背中には鳥の糞のような残念な模様が増えた。