テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……あと、思うんですけど、さっき聞いたホテルでの失敗談も含め、春日さん側の気持ちの問題もあるかもしれませんね」
私が指摘すると、彼女は「自覚はある……」と溜め息をついた。
「完璧主義じゃないです? 『初めてのエッチで失敗したら、格好悪い。笑われるかも』って怯えてないですか?」
そう言うと、春日さんはしんみりとした顔で頷いた。
「確かにそうかも。仕事では舐められたら終わりだから、仕事内容も見た目も、パーフェクトを心がけてる。…………そんな私が、全裸になって恥ずかしい所を晒して、男の人に犯されて『あんあん』言うとか抵抗があるのよ。そんな弱いところ見せたくない」
きっと、これが春日さんの本音なんだろう。
「……強い女であろうとした弊害ですね」
よしよしと彼女の頭を撫でると、春日さんは私に抱きついてくる。
エミリさんはサラミを囓って少し何か考えていたけれど、ビールの缶を開けてゴッゴッゴッ……と飲んでから言った。
「私も朱里さんも、まだ結婚してないし、偉そうに言える立場じゃないです。でも結婚するって、相手に格好悪い所を見せなきゃいけないんですよ。寝起きのノーメイクで頭ボサボサの姿を見せないとならないし、同じトイレも使う。自分のも彼のも、下着を洗濯しないとならない。子供がほしいならセックスするのは必須。裸を見せたら心許ないし、秘部を見せたら恥ずかしいのは当たり前。……でも、春日さんの裏も表も全部見せても、絶対に動じずに何があっても味方でいてくれる人が、旦那さんになるんですよ」
春日さんは溜め息をつき、私から離れて膝を抱える。
「私、こないだ尊さんの前でおならしちゃったんですけど、『フローラルだな』って言われて笑いました」
「「ぶはっ!」」
しんみりしていたところでおならの話をしたら、二人とも手を打ち鳴らして笑ってくれた。
「恥ずかしくて嫌がったら、『もっと嗅がせてくれ』って言ってくるんですよ? 変態ですよあの男は」
私が恥ずかしがらないようにふざけてくれたのは分かってるけど、あの時は笑いすぎてお腹が痛くなって大変だった。
「でもいつかは、おならしても恥ずかしがらない、ナチュラルな関係になれたらいいな、って思います。当分は乙女の恥じらいを持っていたいですけど」
「確かに!」
エミリさんが深く頷く。
「そんな感じなので、あんまりプライドを高く持ちすぎると、自分の幸せの妨げになってしまうと思います。……その辺、がんば!」
ぐっと両手を小さく握ると、春日さんはうんうんと何度も頷いた。
「パイセンたちの話、ためになるわぁ~……。もうちょっと頑張ってみようかな」
彼女はビールの缶を開け、ゴッゴッゴッゴッ……と飲んでいく。
「さっき、途中でお祖父様の話になってしまいましたけど、エミリさんは風磨さんとどうなんですか?」
もう一度聞き直すと、エミリさんは「せっかく話が逸れたのに……」と残念がる。
「うちんトコは特筆するような事はないわよ? 付き合いが長いから、もうお互い慣れちゃってるのよね」
「エミリさんが主導権を握ってるんですか?」
尋ねると、彼女はカマンベールチーズを一切れ口に入れ、モグモグしながら答える。
「普段はそうかも。我が儘を言っているんじゃなくて、何かを決める時に風磨さんは『俺はどっちでもいいよ』っていうタイプなの。だから私がどんどん決めていく感じ。……あ、でも『夜ご飯何がいい?』の時とかはちゃんと答えてくれる」
「それ! 分かります! 尊さんは言いませんけど、ご飯の献立に迷ってる時の『何でもいい』は困りますよね! 実家の父と兄がそうでした」
私はパンッと手を打って頷く。
「でも、大事な決断をする時はちゃんと意見を言ってくれるし、バランスはとれてるかな」
「ベッドでは?」
春日さんがズバッと尋ね、ニヤニヤしながらエミリさんを見つめる。
エミリさんは大きな溜め息をつき、「日本酒とスルメがほしいわね」と呟いてから答えた。
「主導権は一応あっち。……風磨さんのエッチは、ひたすら奉仕系かな。とことん愛撫して舐めて、しつこいってぐらい達かせてから挿入……みたいな。本人はあまり性欲が強いタイプじゃなくて、自分の快楽はあんまり求めないみたい。『エミリの可愛い姿を見るのが好き』……だって」
「「ヒュウウウウウ~~~~」」
私と春日さんは図らずも同時に、下卑た笑みを浮かべてエミリさんをはやし立てる。
つい、ノリでそういう反応をしてしまったけれど、〝できる女〟代表みたいなエミリさんのベッド事情を知って、ドキドキしてしまった。
(次に風磨さんにお会いする時、変な想像をしないようにしないと)
自分に言い聞かせた時、被弾した。
「じゃあ、次は朱里さんの番ね」
春日さんにポンポンと背中を叩かれ、私は亀のように首を前に突きだして目を丸くする。
コメント
2件
「フローラルだな」....ミコティ面白すぎる~🤣🤣🤣
((φ(・Д´・ *)ホォホォなるほどー…次 朱里ちゃん💕(*´艸`)