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――命令という名の楔――柱屋敷・会議室。
雪紅は腕を組み、畳を睨んでいた。
嫌な予感は、外れない。
当主代理:
「――以上の理由により」
紙を畳む音。
当主代理:
「次の任務、
氷柱・童磨
補佐として――」
新人隊士:
「はいっ♡」
食い気味の返事。
雪紅:
「……誰が決めた」
空気が、ぴしりと張る。
当主代理:
「彼女の父は、後援者だ」
雪紅:
「……」
新人隊士:
「お父様がぁ、
“柱様と実戦を積め”って♡」
童磨:
「へぇ」
興味なさそうな声。
雪紅:
「……危険だ」
当主代理:
「承知している」
雪紅:
「なら」
当主代理:
「これは命令だ、紅柱」
その一言で、口を噤むしかなかった。
童磨:
「了解〜」
軽い返事。
雪紅:
「……童磨」
童磨:
「ん?」
雪紅:
「……」
言葉が、出ない。
新人隊士:
「よろしくお願いしますぅ、氷柱様♡
私、全力で頑張りますからぁ」
童磨:
「死なないようにはするよ」
新人隊士:
「えへへ♡
頼もしい〜」
雪紅:
(……何で)
胸の奥が、重い。
数日後。
任務前の準備場。
新人隊士は、やけに距離が近い。
新人隊士:
「氷柱様ぁ〜、
この紐、結び方分からなくてぇ」
童磨:
「自分で結んだ方が早いよ」
新人隊士:
「でもぉ……」
手を伸ばそうとした瞬間。
童磨:
「触らないで」
笑顔のまま、ぴたり。
新人隊士:
「……え?」
童磨:
「危ないからねぇ」
新人隊士:
「そ、そうですよね♡」
誤魔化すように笑う。
少し離れた場所。
雪紅:
「……」
胸の内が、ざわつく。
雪紅:
(拒んでる……のに)
それでも。
二人が並んで立っているだけで、
目が、離れない。
新人隊士:
「氷柱様って、
紅柱様と仲良いんですかぁ?」
童磨:
「どうだろ」
新人隊士:
「でも、よく一緒にいますよねぇ」
童磨:
「目に入るから」
新人隊士:
「え?」
童磨:
「雪紅は、放っておくと無茶する」
新人隊士:
「……へぇ」
少し、声が低くなる。
新人隊士:
「でもぉ、
これからは私が一緒ですもんね♡」
童磨:
「それは違うよ」
新人隊士:
「……?」
童磨:
「君は“補佐”」
一拍。
童磨:
「俺の隣は、決まってる」
新人隊士:
「……っ」
遠くで、それを聞いていた雪紅の肩が、僅かに揺れる。
雪紅:
(……何を、言って)
新人隊士:
「で、でも命令ですし……」
童磨:
「命令は“組め”だ」
目が、細くなる。
童磨:
「近づけ、とは言われてない」
新人隊士:
「……」
その瞬間。
新人隊士の視線が、雪紅へ向く。
新人隊士:
「……紅柱様って」
雪紅:
「何」
新人隊士:
「氷柱様のこと、
好きなんですかぁ?」
雪紅:
「……っ」
空気が、凍る。
童磨:
「……」
雪紅:
「……関係ない」
新人隊士:
「ふぅん♡」
童磨:
「それ以上言うと」
新人隊士:
「?」
童磨:
「俺が不機嫌になる」
静かで、冷たい声。
新人隊士:
「……」
童磨:
「君の父の顔、立ててるだけだから」
新人隊士:
「……っ」
雪紅:
「童磨……」
童磨:
「大丈夫」
視線だけ、雪紅に向ける。
童磨:
「俺は、間違えない」
雪紅:
「……」
胸の奥の“もやもや”が、
少しだけ――形を持ち始めていた。