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エルス学園入学式当日、僕は愛しのアレイシアと登校するためソブール公爵邸に迎えにきていた。
「ふ……」
「何ニヤけてるんですか?」
今はウェルと隣に立ちアレイシアを屋敷内で待機をしている。
いつも時間に厳格にアレイシアだったが,珍しく支度に時間がかかってしまっているとか。
リットさんから中で待っててくれと言われたのでアレイシアを待っていた。
屋敷内はアレイシアの出立のためざわざわしていて慌ただしい。
「君の辛辣な言葉は相変わらずだね」
そんな中、いつも通り辛辣な言葉をかけてくるウェルの言葉を聞き流しつつ雑談をしていた。
「そんなに楽しみなんですか?アレイシア様の制服姿」
「そりゃね……」
ニヤけている理由知っているのかよ。
相変わらず鋭いウェルである。
だって楽しみなのは仕方ないじゃないか。
普段は礼服のドレスを着込んでいるアレイシアが学園の制服を着ているのだから。
乙女ゲームのデザインでなんとなく覚えているものの、リアルで見れることが楽しみで仕方がない。
「アレンくん」
そう思っている時であった。
一階の廊下から降りてくる一人の男性、威厳ある達振る舞いでこちらに来たラクシル様から話しかけられた。
「ラクシル様、おはようございます」
「そんなに構えんでいい、楽にしてくれ」
姿勢を正し挨拶をしたのだが、ラクシル様にそう言われた。僕はお言葉に甘えて少し肩の力を抜いた。
「娘の準備に手間取り待たせて申し訳ない」
「いえ、お気になさらず。僕にとってはこの一時は楽しみですので」
「そうか……世の男はこのような待ち時間は好んでいない者が多いと聞くが。アレンくんは特別らしい」
「そんな大層なことではありません。僕が単に変わっているだけかと。よく変わり者と呼ばれますし」
「なるほど……確かにそのようだな」
納得するのかよ。
自分から言い出したことだけども。
「ですが、僕はそれを長所と捉えております」
「短所ではないか?……常に問題の渦中にいたではないか」
「それは意図して起こしているわけではなくてですね。最近は事業なども軌道に乗り落ち着いた頃合いなので問題は起きないかと」
僕は何の言い訳をしているのだろう。
ラクシル様相手に以前は緊張していたが、最近はブランデーの件でやりとりするようになってからは気楽に接することができるようになった。
「ふははは。なら、学園では平穏に過ごせると良いな」
「ええ……本当に」
ラクシル様は何しに来たのだろうか?
ただ僕と話に来ただけなのか?
そう疑問が浮かぶもすぐに解消された。
ラクシル様は真剣な表情になり話し始める。
「アレンくん、有事の際は私を頼るといい」
「……はい?」
突然の言葉に戸惑うもラクシル様は先程の雑談の時に比べ声のトーンが僅かに落ちていた。その声は真剣な話をする時の声であった。
なるほど。これからが本題ということか。
「我がソブール公爵家は何があろうとアレンくんの味方であり続けると約束しよう」
ラクシル様の言葉……ソブール公爵家の僕の後ろ盾になってくれるということ。
どんな些細な相談を持ちかけたり、僕の立場が悪くなったりしたら味方であり続けてくれるという意味。
口約束になるだろうが、ラクシル様は一度した発言は必ず守る厳格な人だ。
だからこそ疑問浮かぶ。
「……なぜですか?申し出は嬉しいのですが、僕はラクシル様にいただいてばかりで恩を返せたことは一度も」
「過小評価しすぎだ。私は君に返しきれないほどの恩がある。アレイシアは君と出会い大きく成長することができた。ぎこちなかった愛娘との溝を埋めることができた。君が私たちにもたらした事は私や娘の人生に良い影響を与えてくれた」
ラクシル様は微笑んだ。普段顔が少し怖い印象のある顔だが今は綻びが見える。公爵閣下ではなくアレイシアの親としての発言。
「これから娘は学園生活苦労することが多いだろう。未だに友人と呼べる存在も少ない。……完全に信用し頼れる存在は婚約者たる君だけだ。どうかアレイシアをよろしく頼む」
その言葉を言い切るとラクシル様の眼差しは僕の瞳を捉えていた。真剣な瞳にどこか温かい感謝の念を感じた。
僕は自然に口角が緩んでしまう。
「お任せください。必ず幸せにします」
僕は将来の宣言を含めてラクシル様を安心させるため発した言葉だ。
そんな言葉にラクシル様は僅かに目が開く。
だが、今の発言はダメだったようだ。ラクシル様は僕の肩に手を乗せると目を細めてくる。
「それはまだ先の話だ。……節度は守るように」
「……重々承知してます」
「わかっているならいい。では私は執務に戻る。アレイシアをよろしく頼むよ」
「はい」
肩に乗せられた手に力が入る。
僕は引き攣った笑みをしながらも発言したのだった。
その一言を僕に伝えるとラクシル様はその場を後にしたのだった。
『リタ、変なところないかしら」
『大丈夫、お綺麗ですよ。アレン様もお喜びになりますね』
『……うん』
だが、ちょうど良いタイミングで待ち人が現れる。
一人はメイド服を着込むリタと白色のブラウスに、コルセット風のウエストからふわりと広がるロングスカートの貴族学院の制服を着ているアレイシア。
綺麗さに思わず息を呑む。
コツッコツッと、階段をリタにエスコートしてもらいゆっくりと降りたアレイシアは僕が視界に入ると言葉を発してくる。
「ご機嫌様、アレン様。大変お待たせしてしまい申し訳ありません」
お堅いアレイシアだったが、どこか照れ臭いのか顔が少し赤い。
「とても似合っているよアレイシア」
第一声で出たのは嘘偽りのない褒め言葉だった。
もっと細かい部分を褒めるべきかもしれないが、そんな余裕がないほどに見惚れてしまっていた。
「……ありがとう……ございます……アレン様もその……」
『……似合っております』
最後までは言えず小声で聞こえた。
本音を言えば小声でなく直接言ってほしいものだ。だが、贅沢は言うまい。
ゆっくりと時間をかけて関係を築けば良いのだから。今も昔も変わらない。
焦っても仕方ない。
「アレイシア、お手を」
「……よろしくお願いします」
僕はアレイシアに手を差し出し馬車へエスコートした。