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「〜〜に向けて、改善すべき所ついてだが──」
待ちに待っていなかった会議の日、以外にも先輩の対応に違いはなかった。
イタリアは私達を気に掛けてくれているようで、入室時にあまり気負い過ぎないよう言ってくれた。
この雰囲気に甘んじて、もう振り切って何も無かったことにしてもいいだろうか。
とても言い出せる感じはないし、変に掘り返してもトラウマを思い出させるだけだろうし……。
「さっきから落ち着きがないが、このまま続けてもいいのか?」
「はい、大丈夫です」
とは言ったものの、いつもに比べればうまく話せないでいた。
今ここでできることなどないと結論を出したけども、そんな簡単に割り切れる脳はもっていなかったのだ。
「日本、前のことを引きずっているんだろう?」
「……そうです」
やっぱり、気付かれてしまった。まさか向こうから聞かれるなんて思ってもいなかったので、どう返したらいいか分からない。
「ドイツ、それって」
「いい、イタリア。冷静な内に話を付けておきたい」
先輩はいつもより優しい口調で話していて、一見落ち着いているように見えたが、何を考えているのか分からなくて怖かった。
「あの、先輩。人通りが少ない部屋ですから、まさか先輩が来ると思わなかったんです」
「弁解して欲しい訳じゃないし、必要ない。お前はあれをやって幸福なのかもしれないが、俺は不快になった」
“悪いことをしたのは自分の方だ”という感情はある。だが、脳内で考えたことをそのまま実行に起こせるとは限らない。
実際、私は確かに見せてしまったのは悪かったけど、そうとしても言葉選びが酷くないかと、論点から遠く離れた端に置かれた装飾品に目を付けた。
「でも、あの部屋に来たのは先輩ですよね。それで不快とまで言われる筋合い無いと思いますが」
今思えば、そこから会議室の空気感が変わった気がする。
一時的に抗議したとしても、論点に沿った回答をすれば許されただろうが、その時はもう頭に血が上ってしまっていて、思考を巡らせるだけのスペースが無くなっていた。
「そこは今関係ないだろ。もし俺じゃなくて厄介な連中だったらどうしたんだ? 世間がお前らをどういう目で見るか分かってるのか」
「そんなの痛いほど分かってます!」
「ならそれ相応の配慮と対応をしろ」
「見てきたのは先輩の方でしょう、上から目線で言えるような立場じゃないと思うんですが」
せめてここで辞めていればまだマシだった。まだ口答えの範囲で、時間は掛かるだろうが水に流せるだろうし。
「資料を取りに鍵の開いている部屋に入ったらマナー違反か? 馬鹿らしい」
「そもそも、先輩は何が嫌なんです? 羨ましいんですか?」
「は?」
さっきまでがお遊びだったみたいに部屋が凍り付き、一瞬で現実に引き戻された。
こんな顔の先輩は初めてだ。自分が地雷を踏んでしまったことは、考えるまでもなく理解できた。
「もういい、お前とは話にならん。 一時的な不幸せを受け入れたくないなら、幸せに破滅していればいい」
正しい選択肢だってあったはずの全てがもう破綻になり、ドアが雑に閉められた。
「あっ……先輩!」
冷静に聞いていれば、先輩がしたかったのはただの忠告だったと解釈できたかもしれない。
でも当時、私は最初の些か強い言葉に目がいって、その後の全てにも反論してしまった。
「待って。日本の気持ちも理解できるけどさ、今は焦ってどうにかなるとこじゃないよ」
「……そうだな」
次に先輩達と会う機会があるのは、約三ヶ月後。私はその日を待ち遠しく思いながらも、どうか来ないよう祈っていた。
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