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白山小梅
12
#借金
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レストランでの食事が終わってからも、時間ギリギリまでお酒を飲みながらお喋りに花を咲かせていたが、七香はつい時間を気にしてしまい、チラチラと時計を見たりスマホをチェックする。
レストランはそれぞれが個室になっており、昴のグループがいるかどうかもわからず、七香は不安を覚える。連絡先を知らないこそ、現状を尋ねられないことがもどかしく感じた。
そわそわとした様子で心ここに在らずな七香を見かねた翔子が、
「なーに? 七香ってばもう眠くなったの?」
と突然話しかけて来た。
一瞬何が起きたのか分からず七香が目を|瞬《しばた》くと、今度は羅南が持っていた部屋の鍵をスッと手渡してくる。
「朝早かったって言ってたもんねー。ほら、先に戻って寝ていいよ。翔子がもう一つ鍵持ってるし」
「えっ、それなら俺が部屋まで送るよ!」
翔子と羅南が回したパスを松倉が止めようとしたので、今度は楓が涼太を小突きながら、
「松倉が行くなら私が行くよ。男子、まだ飲み足りないでしょ?」
と二人をアシストするように声をかけた。
そこから何かを察したのか、涼太も大きく頷く。
「お前が送ったら帰って来なさそうで怖すぎる!」
「そ、そんなことしねーよ!」
そのやり取りを尻目に、三人が七香を見ながら大きく頷いたので、七香も同じように頷き返す。
「じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかなぁ。あっ、一人で行けるから大丈夫だよ」
「あっ、そ、そっか」
七香が立ち上がると、
「気をつけてね」
と翔子の囁くような声が聞こえた。
振り返ると、翔子がグラスに口をつけて手を振っていた。心配してくれる素敵な友人に恵まれたことを幸せに感じながら、七香はレストランを後にした。
エレベーターを呼び出し、五階のボタンを押す。だが自分の姿を見て眉間に皺を寄せた。浴衣のまま行くのは失礼だろうか。着替えるべきか悩みつつ、もし待たせていたのなら早く尋ねた方がいいと思った。
話すだけ。時間が早ければ、それだけ早く部屋に戻れるはずーーむしろずっと気になっている早紀のことを聞ければ、それだけで十分だった。
エレベーターを降り、五〇三号室に向かって歩き始めるが、足取りが重い。廊下に敷き詰められた赤い絨毯に足を絡め取られているような感覚。これからどんな時間を過ごすのかという緊張がそうさせているように思えた。
再会していきなり密室に男性と二人きり。警戒しない方がおかしい。でも彼には早紀さんがいるのだから、何かが起こる心配はないだろうという安心感もある。しかし、それならば今日一緒にいた人たちは本当にただの友達なのだろうかーー。
五〇三号室の部屋の前に立ち、悶々と考え込みながらノックをするのを躊躇っていると、
「まだノックしないわけ?」
と背後から声がし、七香はビクッと体を震わせる。
振り返ると、浴衣を着崩した昴がビニール袋を持って立っていた。
「な、なんで昴くんはいつも背後から来るの⁈」
「そんなの、たまたまだろ? ドアの前でそんな険しい顔してたら、話しかけられない」
「そ、それは……」
「何? 俺に何かされるとでも思った?」
「いや、それはないでしょ。どうせ子どもっぽいし」
「まだそれ引きずってんの? あんなの、ただからかっただけだろ?」
「昴くんにはその程度でも、高校生の私は傷付いたんだよ」
「そっか……それは悪いことしたな。ごめん」
「まぁわかってくれればいいけど」
昴が鍵を開け、不敵に笑う。
「心の準備は出来てる?」
「もちろん! じゃなきゃ来ませんよー」
昴の横をすり抜けると、七香たちの部屋とは違う洋室で、ダブルベッドが一つと、大きな窓の前にテーブルと椅子が二脚置かれただけだった。
「七香がワインって言うから、今買って来た」
「えっ、わざわざ買って来てくれたの? ありがとう」
窓辺に寄っていくと、壁際の棚にグラスが置いてあり、その下には冷蔵庫が設置してある。昴が袋からお酒を出す間に、七香はグラスに手を伸ばしてテーブルに置いた。
「買って来たばかりだから、十分冷えてると思う」
「白ワインがいいなぁ。好きなの」
「了解」
七香は椅子に座り、昴がワインを開ける姿を眺める。やはり彼の容姿は七香の好みにドンピシャだった。今まで会った人の中でカッコいいと感じたのは昴だけなのだ。
昴がグラスに注いだワインを手に取ると、
「まぁ再会を祝して、って感じ?」
と彼は笑いながら言う。
七香はクスッと笑い、互いのグラスを合わせた。
「あれから五年経つんだねぇ。昴くん、全然変わってないからすぐにわかったよ」
「変わってない? あの時よりさらに良い男になってると思うけど」
「あら、中身も成長してなかった」
目を細めた昴がおかしくて、七香は笑いが止まらなくなる。もっとギスギスした会話になると思っていたので、こうして久しぶりに会った友人のように話せて安心した。
「もっと遅い時間に来るかと思ってたから、ちょっとびっくりした。友だちにはなんて言って来たの?」
「うん? 誘われたから行ってくるねって。さすがに男子には言えなかったけど」
「どうして?」
「だって再会したばかりの男性と部屋で二人きりだよ。そんなの言えないでしょ」
「もしかして、あの中に彼氏がいたり?」
「ないない。なんか私、恋愛向きじゃないんだよね。男性のこと、なかなか恋愛対象として見られないみたい」
「へぇ……じゃあまだ経験なし?」
「……昴くんって、すぐにそっち方面の会話になるよね。それセクハラだからやめた方がいいよ」
「あはは! 昔も言われたな、それ」
「あぁ、確かに言ったかも。やっぱり成長してないじゃない」
和やかな時間が過ぎていくと、徐々に早紀のことを聞きづらくなってしまう。この空気を壊すより、もう少し話していたいと思う自分に困惑した。
そういえばあの時もそうだったーーあんなに嫌々一緒に出かけたのに、帰る頃には楽しくなってしまった。
でもこの部屋に入るまでは、早めに早紀のことを聞いて、友人たちが待つ部屋に戻ろうとしていた。みんなに心配をかけないためにも、それを実行すべきだと感じる。
七香はドキドキしながら、意を決して口を開いた。
「今日一緒にいたのって……全員友だち?」
含みを持たせるような言い方になったのは、女性のことを尋ねているのだと気付かせるためだった。
すると昴はワインを口に含んでから、時間をかけてゴクリと飲み込む。
「気になるの?」
「気になるっていうか……女の子が一緒だってこと、早紀さんは知ってるのかなって思っただけ」
七香が言うと、昴はどこか寂しそうに微笑んだ。
「もちろん知ってるよ。しかも一人の子とは関係を持ったこともあるし」
それは七香にとって衝撃的な言葉だった。彼が別の女性と関係を持ったこともだが、そのことを早紀が納得していることが理解出来なかった。