テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第6話 【ウォル】ふざけたハンドルネームを登録してみた【111】のハンドルネームを持ってことも判明。
机の上に、端末が二台並ぶ。
カメラの表示が点き、部屋の隅の影が少し濃くなる。
指を鳴らす音が一度。
笑いが短く跳ね、すぐに収まる。
端末の画面が開き、入力欄が現れる。
隣の人物は、言葉を出さずに手だけ動かす。
検索欄に文字が置かれ、すぐ消される。
また置かれ、整えられる。
【ウォル】は椅子の縁に腰をかけ、膝を揺らしながら見ている。
待つのが苦手な目だ。
でも、指先は触れない。
候補の綴りが画面に出るたび、空気が一瞬だけ固くなる。
その固さは、笑いに混ざらない。
一つ、音が変だと感じる並びが置かれる。
見た目はふざけているのに、どこか整っている。
整いすぎて、ふざけが透ける。
【ウォル】が口の端を持ち上げる。
端末の表示が切り替わる。
警告が出ない。
【ウォル】は笑いをこらえるように鼻で息を出す。
そのまま、カメラに向かって肩をすくめる。
机の上で、もう一台の端末が点く。
【ウォル】がそれを持ち上げる。
画面を見せる角度が、やけに手慣れている。
数字だけ。
【111】
指先で画面の縁を叩く。
二回。
笑いが漏れそうになり、喉の奥で止まる。
その数字が、端末の上で静かに座っている。
カメラの向こう側がざわつく気配がして、
【ウォル】の目が細くなる。
端末を机へ戻し、
空いた手で髪を一度かき上げる。
入力欄に戻る。
隣の人物が、確定の手前まで滑らせる。
止まる。
止まったまま、画面を見つめる。
【ウォル】の膝の揺れが少し遅くなる。
指先が、わずかに浮く。
押すのは隣の手だ。
【ウォル】はレンズを見る。
軽い顔を作る。
軽く見せるための顔。
押される。
画面が切り替わる。
次の画面。
さらに次。
読み込みの輪が回り、
止まる。
完了。
表示は短く、乾いている。
【ウォル】が息を吐く。
笑いではない音。
そのまま、口角だけ上げる。
机の上に残った新しい綴りは、
ふざけた形のまま、消えない。
【ウォル】は端末を持ち上げ、
レンズへ寄せる。
見せる。
一度。
二度。
見せ方が、少しだけ丁寧になっている。
コメントの流れが速くなる。
画面が震え、机が小さく鳴る。
【ウォル】は、数字の端末をもう一度起こす。
【111】が変わらず表示されている。
視線が一瞬だけ落ちる。
目の奥に何かが沈む。
でもすぐに笑いへ戻る。
指で机を叩く。
二回。
言葉が途切れ、またつながる。
ふざけているように見える時間の中で、
押したことだけが残る。
端末を伏せる。
隣の人物が、画面を閉じる。
閉じ方が静かだ。
【ウォル】は椅子を回し、
カメラに向かって手を振る。
部屋の音が戻ってくる。
登録された名前は、もう戻らない。
その夜、
【ウォル】の笑いは軽いままだった。
軽いまま、
机の上で、
確定だけが冷えていった。