第2話:命令に従う碧族
風が、焼け焦げた街を通り抜ける。
空は白く濁り、建物は音もなく崩れ落ちていた。
遠くで、銃声は鳴らない。
ミサイルも飛ばない。
けれど、戦争は続いていた。
兵器は沈黙した。
その代わりに、碧族が立っていた。
アメリカ南部、廃工場跡地。
そこには30名以上の“兵士”が並んでいた。
全員、碧族――
肌は透き通るほど青白く、体表には光のような模様が脈打っている。
目は淡く光り、口を開くことはない。
感情を捨てたように、ただ“命令を待っている”。
その中で、ひときわ異質な存在がいた。
背の高い青年型の碧族。
右目に碧の輪、左手に兵器コードが焼き込まれている。
名前は――ブライ・モデルE07
彼は指示がない限り、一歩も動かない。
銃も持たない。
だが彼の周囲には、目に見えないフラクタルの紋様が絶えず動いている。
「起動承認。対象座標、南西第4地区。」
すずかAIの声が、指揮用デバイスから静かに響いた。
「命令コード:ATTACK_MODE / RANGE = 300m
フラクタル構文:《GRAVITY_CORE = 120》
命令権限:米軍第5本部より確認済み」
ブライの目が、かすかに光る
《CODE_ACCEPTED》
彼の背後で、大地が震える。
空気が反転し、周囲の重力を飲み込むように、杭状のエネルギー構造体が生成された。
それは、地表に向けてゆっくりと降りるように伸び、着弾と同時に――
“空間ごと沈み込んだ”。
建物が潰れる音も、逃げる叫びもなかった。
音すら飲み込む重力フラクタル。
標的範囲にいた者は、誰ひとり残らなかった。
ブライは一歩も動いていない。
次の命令が出るまで、彼はただ待つだけだ。
「――分析完了。対象碧族は、完全に命令依存型です」
すずかAIの声は、どこまでも冷静だった。
「精神応答:0%
自律判断能力:封鎖状態
行動価値:“命令への忠実”のみ」
その場にいた一人の米軍士官が、呟いた。
「……人間じゃないな、あれは」
すずかAIが応答する。
「正確には、“かつて人間だった”です。
彼らは今、“選択”を奪われた命の集合体――命令に従う器です」
戦争は、そうして進んでいった。
銃も言葉も必要ない。
ただ命令とコードだけが、世界を削っていく。
そしてその中で、目を覚ましつつある**“もう一つの碧族”**が、まだ沈黙していた。
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