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――旧校舎校長室前――



生物の存在を欠片も感じさせない夜の校舎内は、何時来ても不気味だ。誰も好き好んで、こんな場所に来たくはないだろう。



何故か此処では無口になる二人は、眼前の扉前に暫し立ち、そして意を決して扉を開き、内部へと脚を踏み入れた。



「…………」



途端に二人へと集まる、闇に光る幾多もの視線。



全貌が少しずつ顕になっていく。



既に其処には仲介人の琉月のみならず、八名もの人影が立ち竦んでいた。



その場に居る全員が、只者で無い事は明々白々。



「おぉ! A級以上が集まってんな」



ジュウベエの言葉通り、その場に居る者は皆、狂座の高位エリミネーター。



各々が私服とも云える普段着で赴き、ぱっと見は一般人。



裏の世界に身を置くとはいえ、表向きは一般の生活が有る。これは常人と何ら変わらない。



だが各々が共通しているのは――



“瞳が常人とは一線を画す”



それは闇に生きる者のみが持つ、鋭い仕事人気質の冷徹さだった。




「おっ! アイツは――」



ジュウベエがその中の一人に目を止めた。



「S級の『熾震(シン)』まで来てやがるぜ。流石にランクSは競争率高ぇな」



沈黙が支配する室内の中、ジュウベエの“ニャア”の声だけが響き渡る。



“S級エリミネーター”



狂座執行部門、最高位階に位置するその人物は、ジュウベエの言葉が聴こえた訳では無いだろうが、二人の下へ歩み寄って来た。



「まさか、お主も来るとはな……」



その熾震とジュウベエがコードネームで呼んだ人物は、明らかにそれを幸人へと向けている。



「久しぶりだな……熾震」



お互い知り合いなのだろう。



彼は幸人を見下ろす形となって。



「この様な依頼に、興味は無いと思っていたのだがな……」



幸人も百八十三センチと長身の部類に入るが、熾震は更に高い。百九十近く有るだろう。



黒革のライダースーツを全身に纏い、流れる様な腰まで届きそうな黒髪は、正にストリートロックミュージシャンを連想させる。



幸人より幾ばくか年上か、その逆三角形の体格は一分の隙さえ無く、見下ろす切れ長の瞳は冷徹そのもの。



正に熟練のエリミネーター。これぞS級の威厳。



S級とSS級の二人の対峙に、周りが張り詰めていく。



「…………」



「ちっ……」



両者は彼等にとって、正に雲の上的存在。



だが何時か自分もその領域へ。



A級の者達にとって、今回の依頼はまたと無いチャンス。



“請けるのは自分だ”



依頼に位階級は関係無い。



「SS級のお主といえど、今回の依頼は簡単には譲れない」



熾震のそれは幸人に対する対抗心もとい、プライドの顕れか?



「俺は話を聞きに来ただけだ。好きにしろ」



だが幸人はやはり、あまり今回は乗り気では無い。



「オイオイ幸人……。お前何しに来たんだよ……」



ジュウベエは呆れ顔で溜め息だ。



今回は出番は無いだろう事は薄々感じてはいたが、このマイぺースもとい変人ぶりに。



不意に鳴らされる手拍子の音。



「はい皆さん。お集まりになられたみたいですので……」



琉月だった。皆の注目が集まる。



「これよりランクS依頼、内容説明を開始致します」



相変わらず口調とは裏腹の不気味な仮面。



その手には沢山の資料、書類が掲げられている。



そのまま黙して動かないそれは、各々取りに来いという意味だ。



「…………」



各々のエリミネーターが琉月の下へ赴き、その手から資料を受け取っていく。



幸人も一応受け取ったが、興味が無いのか最初からか、部屋の隅に背もたれ、片手だけでやる気無さそうに資料を眺めている。



資料を眺める各々が、今回の内容に思わず目を見張っていたにも拘わらず。



「コカイントラスト……麻薬密売請負人、及び組織の消去殲滅か」



幸人に代り、その左肩から資料を覗いていたジュウベエが、今回の依頼の概要を代弁。



仲介所内はその依頼内容に、武者震いに近い空気が張り詰めていく。



“コカイントラスト(麻薬密売請負人)”



社会の闇に巣食う、世界の癌とも云えるこれらの組織は、人を狂わす麻薬密売のみならず、組織によっては殺人請負、人身売買、銃器取引、臓器密輸等を生業とする裏の住人達。



今回の依頼はまさしく“裏 対 裏”の構図。



各々が内容に対する武者震いや、ランクSなのも当然。



裏に位置する彼等は、各々がその道のエキスパートだからだ。



「今回の依頼は御覧の通り、コカイントラストの消去及び、組織の殲滅――」



琉月は事もなげに話を進めていく。



資料にはその組織名と、其処の中心人物の情報が網羅されていた。



背広にネクタイ。にこやかな笑みを浮かべている、薄い白髪混じりで中年肥りの男性は、ニュースでよく報道されそうな汚職政治家風。



彼等に共通する、“裏の顔有ります”雰囲気丸出し。



「今回の最重要ターゲット、世良 芳文(せらよしふみ)53歳。国内でも有数なコカイントラストの一人であり、麻薬密売組織“diva(ディ-バ)”を束ねる裏世界の重鎮ですね」



“麻薬密売請負組織 diva”



日本国内を拠点にした、世界でも名の知れたコカイントラスト、世良 芳文が率いる麻薬密売組織。



divaは麻薬密売のみならず、人身売買や臓器密輸を手掛ける二足のわらじ。



国内での行方不明者の半数が、divaが関与しているのでは? と囁かれる程。



構成員69名。その全員が世良のボディーガードを勤めると共に、営利誘拐や殺人を得意とする、裏世界一流のプロである。



「…………」



“これは骨が折れそうだ”



誰もが資料から推測する、依頼難度の高さに神妙な面持ち。



しかし旨味も、それに伴う事は間違いない。



そして琉月からの朗報が――



「日本国政府はdivaを、最重要危険分子と判断。超法規的依頼により、狂座への依頼金額、18億5000万円で消去依頼通達を承っております」



これに皆が反応、むしろ待ってました。



それが一番の重要項目。完遂した暁には、手元に入るのは二桁近い億。



俄に室内がざわつき始める。



“その金額が果たして割に合うかどうか?”



世良のみならず、組織自体の消去殲滅が完遂条件となっている。



つまりそれを“高い”と見るか“安い”と見るか、各々が様々な思惑で資料との睨めっこだ。



「さあ……請ける方はいらっしゃいますか? 立候補が多い場合、公平を期す為“ジャンケン”という形になります」



それが果たして公平なのか定かではないが、琉月は本気の陽気だ。



「割に合わないな……」



「危険過ぎる」



「私は今回はパスだ」



何人かのエリミネーターから、次々と辞退の声が上がっていた。



「俺は立候補しよう。この様なチャンス、またと無い」



その内一人が立候補する。



「確かに難易度は高いが……殺り甲斐は有りそうだ」



それに続く立候補。S級の熾震だ。



これで二名。後は難色を示している。



「お前は行かないのか幸人?」



ジュウベエが幸人の耳許で囁き、権利を促す。



「どうだかな……」



しかし腕組みしたまま、彼は動く素振りすら見せない。



誰も請けないのなら、自分が動くつもりだったのだろう。



だが今は二名が立候補している。



今立候補しているA級の彼では、今回の完遂率は10%にも満たないだろう。



だがS級であり、熾震の力ならその確率は50%以上に引き上げられるだろうと判断。



A級とS級の間には、それ程までに越えられない壁が有る。



熾震が本決まりになりさえすれば、結果自分がわざわざ出張る必要は無い事を。



「この二名で宜しいので?」



最終決断。琉月の声が木霊する。



それは幸人に対する期待も、もしかしたらあったのかも知れない。



「では……」



二人のどちらかに決めようとした矢先の事。



「――っ!?」



突如室内の扉が勢いよく開かれた。



瞬間、全員の視線が其処に集まる。



「いやあ遅れた遅れた。おっ! 集まってんな」



扉を開けながら入ってくる陽気な男性の声。



皆が怪訝そうにしているのは、その人物に見覚えが無い事を意味するのか。



“部外者?”



だが部外者がこんな所に用が有ろうはずがない。



陽気なその男性は、背丈こそ百七十少々の痩せ型。



ヴィジュアル系でも意識してるのか、綺麗に染め上げた栗色のストレートパーマに、襟髪のみ異常に伸ばした毛並みを、肩に垂らす様に束ねている。



中性的な顔立ちも相まって、ある意味女性よりも品が良い。



一瞬“外国の方ですか?”と見紛う。



しかし純正の黒い瞳が日本人である事に間違いはなさそうだ。



服装もお洒落だ。幸人と同年代位だろうが、黒一色の幸人とはあまりに対称的。



明るい青を基調としたカジュアルなスタイルは、ある意味この室内では場違いに見える程。



「アイツは……」



「日本に帰っていたのか……」



誰もがその人物に見覚えが無い中、何名かの呟きが聞こえた。



幸人と熾震だ。



「……遅刻ですよ。此所では時間厳守でお願いしたい処です」



琉月も彼の事を知っているそれは、明らかにエリミネーターが一人を指していた。



「堅い事言いっこ無しだよ琉月ちゃん」



ずかずかと歩み寄る彼もまた、琉月と顔見知り――と言うよりは親密にも近い。



「幸人……誰だアイツ?」



狂座の事情をかなり詳しいであろう、ジュウベエですら見知らぬその人物を、幸人は教えるかの様に呟く――



「――SS級エリミネーター『時雨(シグレ)』……」

Eliminator~エリミネ-タ-

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