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「SS級……だと?」
幸人が呟いた意外な事実に、ジュウベエが目を丸くし、視線をそれに向ける。
陽気そうな彼に、そういった類いの威厳は感じられない。
幸人の呟きが耳に届いていた他の者達にも、その事実に戦慄が走った。
SS級は全てのエリミネーターにとって、目指すべき存在であり、同時に謎多き存在でもある。
“そのSS級が、この場に二人も?”
注目が彼等に集まる。
だがもう一人の陽気な彼は、そんな視線を知ってか知らずか、近くの者が手に持つ書類を無造作に剥ぎ取った。
「ふぅん……。コカイントラストね。で、依頼金は幾ら?」
突然の時雨の問いに、書類を奪われた者は動揺しながら、それでも馬鹿正直に答える。
「じゅ……18億5000万」
それを聞いた時雨が、よりいっそう目を輝かせた。礼も言わず。
「まあまあだな。よし、この依頼は俺が請けよう」
突然の時雨の身勝手な提案に、皆唖然。
遅れて来ておいて、この振る舞い。
「久々に日本に帰って来たはいいけど、雑魚ばかりで退屈だったからね。この位じゃないと面白くない。ねぇ、いいでしょ琉月ちゃん?」
しかし彼にそんな遠慮や気まずさは無い。琉月にだけ向けるそれは、その他を目に留めてない顕れ。
「それは構いませんが、貴方の他に二名が立候補しておりますので……」
琉月もそんな彼に戸惑っている様に感じる。
言葉を濁したそれは、つまり三人でジャンケンしろと言う事だ。
「他の? ああ無理無理。返り討ちに遭って結局俺が動くのがオチだって! 二度手間時間の無駄」
そうケラケラと笑うは、明らかな他のエリミネーターへ対する侮辱の態度。
悪気が無い処か悪意を以て笑う時雨に、何か肌のひりつく様な敵意、もとい無数の視線が彼に集まっていた。
「なんか雰囲気悪ぃぞ……。こりゃ一悶着有りそうだぜ」
その一発触発の雰囲気に、ジュウベエがそっと耳打ちする。
明らかに時雨に非が有るのだが、彼はそんな雰囲気、気にも留めてない。
それ処か――
「あん? 何殺気立ってんだか……。それともここで全滅でもしたい訳?」
火に油を注いでいる。周りの殺気がより一層、彼に集中する。
「さっきから黙って聞いていれば……。いくらお主がSS級とはいえ、勝手が過ぎるな」
熾震だ。その雰囲気を打ち破るかの様に、彼は時雨の下に歩み寄り、対峙する。
頭一つ分位の身長差か、見下ろす形となっていた。
傍目には熾震の方が格上にしか見えない。
「誰アンタ?」
時雨には熾震を見覚えが無いかの様な問い。
「貴様……S級の私を知らんのか?」
熾震の穏やかだが威圧感のある口調とは裏腹に、その目は笑ってない。
熾震の言う事は最もだ。仮にもSS級がS級の事を知らないのは疑問符がある。逆はあっても。
「さあ……。S級つってもピンからキリまでいるしなぁ。悪いがアンタの事は知らねぇわ。てかホントにS級なの?」
そんな時雨の悪気の無い悪意。
「オイオイ……殺し合いでもおっ始まりそうだぜ」
ただならぬ雰囲気を察知したジュウベエだが――
「おっ始まりそうじゃない……始まるんだよ今から」
幸人のその言葉の意味を皮切りに、室内の空気が一変――
「えっ!?」
************
“level99.99%over”
※※※※EMERGENCY※※※※
突如鳴り響く警告音。
“臨界突破かっ!?”
誰もが思うその警告音の意味を――
「侮辱と見なす……」
殊更殺気を顕にした者。
その集まる視線の先には、熾震の姿があった。
※レベル臨界突破計測確認――
CODE:0990100よりモード反転――
スタビライザー解除:裏コード移行――
※※※※EMERGENCY※※※※
※本機はこれより モード:エクストリームへ移行します――
地殻変動及び空間断裂の危険性大――
速やかな退避を推奨します――
※※※※EMERGENCY※※※※
************
「うるせぇなぁ。誰だよ? サーモの電源切っとかない馬鹿は……」
突然の警告音と、それに続く無機質な機械音声の響きに、時雨が両耳を掌で押さえている。
室内という事も有り、反響でかなり耳障りの騒音レベルだ。
だがそれらは、多重に重なり合って聴こえる。
「あっ! 俺もだった……」
ふと思い出したかの様な、時雨の気まずそうな仕草。
時雨他、何名からかその音は発せられていた。
室内に動揺が走る。それはこの警告音に対してか?
だが“臨界突破”や“サーモ”といった単語は何を指すのか?
それは狂座の者なら、誰でも理解している素振りだった。
「オイッ! 熾震のヤツ、本気になっちまいやがったぜ!! このままじゃマジで殺し合いに……」
「だろうな……」
事態に焦りまくるジュウベエとは裏腹に、不思議な程落ち着き払った幸人は、相変わらず背もたれて腕組みしたまま、事の成り行きを傍観している。
「だろうなって、捲き込まれちまうぞこのままじゃ?」
焦りの度合いから、かなり由々しき事態の様だ。
「――何だあれは!?」
突如一つの声が上がる。
対峙する二人。熾震の方への“異変”に。
それは左手を水平に掲げた熾震の掌へ、まるで納まる様に形となっていく現象。
それが徐々に、そして確実に全貌が顕になっていく。
『日本……刀?』
熾震の掌に納まっていたのは、まさしく鞘付きの黒き日本刀だった。
柄の黒糸網目まで、何処か業物の品格を感じさせる。
「どうなってんだ? いきなり刀が出てきやがったぜオイ!?」
慌てふためくジュウベエのみならず、他の者達まで目を丸くさせ動揺しているのはもっともだ。
日本刀を隠していたというよりは、“突然現れた”という表現が正しいからだ。
“でもどうやって?”
「面白い事するね……。良い手品師になれるよ」
“手品”
そう。まさしくそうとしか思えないが、それでも尚、時雨のこの余裕の態度も不敵だ。
「…………ちっ」
その態度が気に障ったか、熾震は身体を斜にし構える。それは正に居合いの構え。
“ゴクリ”
何やら固唾を呑み込む音。
一体何が始まるのか? 少なくとも只では済まないだろう。
誰も割って入る気は無い。固唾を呑んで両者を見守っていた。
「幸人……熾震のアレは一体何なんだ?」
激突の間近、ジュウベエがもっともな疑問を口にする。
「熾震は近接暗殺に於ける第一人者。あれは異能“ソードマテリアライズ”……。刀剣類を“具現化”するのが奴の力だ」
「具現化系異能か! なるほど……」
“具現化系異能”
博識の幸人に、妙に納得するジュウベエ。これだけで充分伝わったようだ。
“ソードマテリアライズ(刀剣具現化)”
与えられし現象、後天性異能の中でも上位に属するのが、この具現化系異能だ。
だがこれらは何でも思った事が具現化出来る、といった都合の良い能力では無い。
各系統限定の制約が有る。持てるのは各系統、一種類のみ。
だがその系統を極めた時、細部・質感・重量に至るまで、ほぼ完璧にそれらの再現が可能。
刀剣具現化は西洋剣からナイフに至るまで具現化出来る為、近接暗殺には最も適した異能と云えよう。
特に日本刀は造形美、強度、切れ味に於いて、数多の刀剣の中でも最高水準に位置する、まさに日本が世界に誇る芸術品だ。
極上業物とされる新藤五国光や、五郎入道正宗といった有名処は国宝とされ、その文化価値は極めて高い。