ずっと友達が欲しかった。小学生の頃、休み時間にコソコソと友達同士で噂話を共有する子や、放課後に一緒に遊びに行く子たちが羨ましくて仕方が無かった。
だけど根暗で内気な性格なわたしは喋りかけることも、“友達”という輪の中に入ることも出来ず、だれとも深い関係を築くことも出来ないまま小学校の卒業式を迎えた。
入学式に相応しいほどの明るい天気とは裏腹にわたしの気分は暗く沈んでいく。
「ねえ知ってる?かもめ学園の七不思議。」
「知ってる!旧校舎の3階の女子トイレに花子さんが居るんでしょ?」
そんな根も葉もない噂話が飛び交う中学校の入学式。
白や桃色に色づいた桜が静かに淡く小さく咲いており、茶色い地面の上に花びらを散らしている。入学式と大きく書かれたパネルの横で楽し気な表情を浮かべながら写真を撮る自分と同じ新中学生を横目に、わたしはそそくさと昇降口に向って、軽くしゃがみ汚れ一つない真っ白な上靴に自身の足を入れる。肩に垂れていた黒髪がぱさりと揺れた。
友達の居ないわたしは、あの子たちのように一緒に写真を撮ってくれる存在も、一緒のクラスが良いねと語り合う存在も誰一人居ない。
ほんの少しだけ鼻の奥がツンとして涙が溢れだしそうになるのをグッと我慢して、掲示板に貼られていた自身の名前が刻まれた教室へと足を運ぶ。カツカツと上靴の底が冷たく硬い廊下を打つ音や人々の話し声が一つの音になったように纏まって聞こえてくる。
そのまま階段を一段一段噛みしめるように上っていき、長い廊下を歩いて、ようやくついた自身の教室の前で息を一度だけ大きく吸い、一気に吐く。
ここまで来て一気に心に追い詰めてきた緊張の気持ちに、握りしめた手には汗が滲んだ。
小学生時代の独りぼっちだった時の記憶がフラッシュバックして、一歩後ずさってしまう。
もしも中学校でも友達が一人も出来なかったらどうしよう。
そんな黒く暗い不安が心の中で大きく爆発し、気詰まりを覚える。
そう、しばらく俯いていたわたしは、そんなしこりのような固い気持ちを振り飛ばすように頭を振り、白い扉のへこみに手を添えて、一気に力を込めて開いた。
ガラガラと台車が転がるような固く澄んだ音とともに目に入り込んできた賑やかで騒がしい新しい景色に心に宿っていた緊張が少しだけすり消され、 淡い期待が胸いっぱい広がっていく。
その中で一人。
「僕は三葉惣助。しばらくは名前順だから君の隣。」
濃い桃色の瞳に、桜に似た色の髪の毛。
「よろしくね。」
柔らかい笑みを零し、こちらに握手を求めてくる男の子にわたしの心は奪われた。
消す可能性大
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新しい話だー!