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「…が、はっ……!」
蓮が喉を掻きむしりながら、冷たい土の上に崩れ落ちた。
暗闇の中で彼の小さな体は激しく痙攣し、首元の火傷の痕が不気味に脈打っている。
「蓮!しっかりして!」
私が駆け寄ろうとした
その時
蓮の胸ポケットから滑り落ちたスマートフォンが、独りでに青白い光を放った。
画面には、あの忌まわしい『パンドラ』のアイコンではなく
ノイズにまみれた古いビデオ通話のウィンドウが勝手に立ち上がる。
『……ふふ、久しぶりね。栞ちゃん。相変わらず、不幸な顔が似合うわ』
スピーカーから漏れ出したのは、病院で九条さんに連行され、完全に封じられたはずのミチルの声だった。
「ミチル……!?あなた、拘置所にいるはずじゃ……!」
『肉体なんてどこにあっても関係ないの。私はもう、パンドラの神経系の一部になったんだから。……ねぇ、栞ちゃん。お父さんに騙されちゃダメ。お母さんの居場所、知りたいんでしょ?』
ミチルの声に呼応するように、蓮の首元のデバイスが勝手に起動し、彼の喉を通じて「声」が合成される。
「……お……母さ……ん、……は……」
蓮の意識は混濁し、何かに操られているかのように瞳が虚空を見つめている。
「九条さん、車を!蓮をこのままにしておけない!」
九条さんは背後の別荘で室井氏が放った銃声を背に
私たちの腕を掴んで、茂みに隠していた古い軽ワゴン車へと押し込んだ。
「……ミチルの声がどこから発信されているか、逆探知を試みる。だが、彼女が言っていることが本当なら、パトカーが来る前にそこへ着かなければならない」
九条さんがアクセルを踏み込む。
車はライトを消したまま、山道を猛スピードで下り始めた。
背後の山頂では、別荘がオレンジ色の炎に包まれていくのが見えた。室井氏が自ら火を放ったのだ。
証拠を、そして過去を焼き尽くすために。
スマホの画面が切り替わり、ミチルの顔がゆっくりと映し出される。
彼女の背景には、一面に咲き誇る「白い百合」が見えた。
『オリジンが眠っているのは、お墓の下なんかじゃないわ。…お父さんがお母さんを閉じ込めた、あの「温室」よ。海が見える断崖の上の、ガラスの牢獄』
「……温室?心当たりの場所があるわ。小さい頃、父が一度だけ私を連れて行こうとして、結局引き返した場所……」
それは、房総の最南端にある、地図から消された廃村の近く。
九条さんの端末に、結衣から一通のテキストメッセージが届く。
【結衣:掃除は任せて。美波も協力してるわ。あなたは、その「呪いの根源」を断ち切ってきなさい】
パンドラの演出家だった結衣、そして私を地獄へ突き落とした美波。
かつての仇たちが、今は見えない網の向こうで、私を「真実」へと誘導している。
だが、蓮の様子がおかしい。
彼は私に抱きしめられながら、震える手で窓の外を指差した。
「……お姉ちゃん……パパが、…笑ってる。……あそこに」
指差す先は、真っ暗な海。
だが、その暗闇の中に、無数のスマートフォンの光が、まるで蛍の群れのように集まっていた。
パンドラに呼び寄せられた「追跡者」たちが、すでに海路からも迫っていた。
深冬芽以