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ここに来てから2週間程経過し、今日も伊勢或斗に授業を教わっていた。
「そうなる為、多角形の内角の和は必ず360°で……」
普段は滅多に使わない、内線用の固定電話が鳴る。
「もしもし、何の用だ。……!了解した、直ちに向かう。」
「何かあったんですか?」
「アメリカがマタールナの存在を公表した。授業は一旦中断だ。貴殿も会議室に行け。」
伊勢或斗と共に横に長めな灰色の階段を降りて、少し硬めなタイルの廊下を歩く。
会議室は一般的な長机とパイプ椅子があり、草薙陽翠と蛇手けせらもいた。
本来ならプレゼンテーション用に使う最新機種のテレビには、地上波のニュースが映してある。
ニュースでは、アメリカのタロット大統領の記者会見を生放送でしていた。
『During the Apollo mission in 1964, it was discovered that there is a substance called matarna on the moon. This information was known to India, China, Japan, and the Soviet Union, but they had kept it secret from their citizens until now.However, they cannot continue to keep this a secret from the public. They believe that it is wrong for the government to hide important information from the public, and so they tell the public about Mataruna’s existence.』
和訳すると、『1964年のアポロ計画で、月にはマタールナと呼ばれる物質が存在することが発見された。この情報はインド、中国、日本、そしてソ連も知ったが、各国はこれまで機密事項にしていた。しかし、このままでは国民に秘密にしておくことはできない。私は重要な情報を隠蔽するのは間違っていると考え、マタールナの存在を国民に伝える。』とのことだ。
そしてタロット大統領は、マタールナと別の物質を化合することで幻惑·物の自在な操作·レーザーの発射ができてしまうことを話し始める。
「陽翠、ネットの反応はどないなっとんか?めっちゃ炎上してそうやけど。」
草薙陽翠はカメラレンズが3つあるスマホを懐から取り出した。
「日本政府に対しての批判がすごく多くで、アメリカが馬鹿げた嘘を流してるという意見も少しあるわね。……つ〜か、この状況ヤバいわよ。どうするの?」
「我は政府と対談をしに赴く。」
「俺も行くで、陽翠と紙塔はこの建物に留まっといてや。」
伊勢或斗と蛇手けせらは、そう言い残して会議室から出ていった。
(政府と対談しに行ける程、あの2人はかなり上位の立場な者だったのか。)
草薙陽翠はスマホでネットの様子を見ることに飽きて、テレビのリモコンを押してチャンネルを変える。
どの番組も、タロット大統領の生中継が映っていた。
今タロット大統領が話してる内容は、ソ連崩壊後にロシアやウクライナなど元ソ連の国々がどのようにマタールナの所有数を分割したかについてだった。
「今頃、お父様とお母様も政府と緊急で話してるわよね〜」
「マタールナを所持した人は1年以内に右腕を骨折することに、唯一当てはまらなかったのが草薙家ですけど……この公表で今後マタールナを所持した人が増えて、草薙家以外にも右腕を骨折しない者が現れる可能性もありますね。」
「ホントそうなって欲しいわよ。早くマタールナ持つ奴増えないかしら。」
「そうなると陽翠の希少性が下がるから、もし私が陽翠だったら嬉しくないです。」
「お前全くあたしの気持ち分かってないわね。天性の希少な特性持ってる身になるって、面倒よ。」
「自分で天性の希少な特性と言うあたりが、私には自慢にしか聞こえません。特性とはいっても、1年以内に右腕を骨折しないだけですが。」
「もし草薙家のあたしが使うと一般人が使うよりもマタールナを強力な能力として発揮できるみたいな凄い特性だったら、あたしも希少性下がるのは嫌だったわよ。」
(……もし私が草薙陽翠だったらみたいなこととか、そんなどうでもいいこと考えている場合じゃないな。)
この2週間、私がマタールナの存在を口外させない為に一般人のいない施設に住まされていた。
アメリカがマタールナを公表している現状、マタールナを知っていた者達からすれば私がこの施設で暮らす意味はない。
私の今後がどうなるのかが何よりも不安だった。
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アメリカがマタールナを公表してから、4日経過した。
蛇手けせらと伊勢或斗はとても忙しくしていて、あの日から話していない。
たまに政治家や偉い立場の人間がこの施設に来ることもあったが、遠目から見えたりすれ違ったりする程度の関わりしかない。
草薙陽翠も私のように暇にはなっておらず、親族らしき者と話をしているときをよく見る。
食堂で事前に用意されていた朝食を食べているとき、目に薄い隈のある蛇手けせらが来た。
「単刀直入に言うで。アンタを家に帰すことにした。アンタのご家族には事実を説明しとる。今日の午後1時までに荷物をまとめて広場で待っといてや。俺の同業者が車で家まで送迎するで。」
不安が的中するどころか、あの家族の元に戻るという最悪の可能性が当たってしまった。